アルツハイマー型認知症を患う利用者M(80代男性)さん。現在身寄りがなく有料老人施設に入居しています。
Mさんは穏やかな方で決して人を怒鳴りつけたり、暴力をふるう人ではなく会話もすることができますが、症状として徘徊が顕著に見られています。部屋の場所が分からない、何故出てきたか分からない、戻ることもできない。こうした理由から昼は常に館内を徘徊しています。
施設側としては転倒、それによる外傷がとても気になるかと思います。しかし鍵を締める、縛り付けると言ったこともせずMさんには過ごしてもらっています。
こうした不安のある日々でありながらも、少しの工夫で徘徊を止め、静かに定位置に居ることができたこともあります。もし現在認知症のかたの徘徊に対する対応で困っている方がいれば、参考にしていただければ幸いです。
Mさんの徘徊に対する対応
一例紹介します。ある日、徘徊するMさんがドアの前に立っており声を掛け連れ戻しました。そして部屋まで送るとすぐにまた出てきました。私はここで「退屈しているの?それとも何か用があったかな?」と話しかけました。
するとMさんは「退屈で部屋に居てもね。家族はどうしているかと思ってさ」と行ってきました。Mさんが徘徊していた理由は、退屈と人恋しさでした。Mさんは家族が居たものの高齢で離婚しており、子供と元妻とは疎遠になっていました。兄弟や知人もいません。ふと家族が恋しくなったのかもしれません。
部屋は個室になっており、静かな部屋だったこともあり1人でいることに飽きていたのもあったのでしょう。Mさんの気持ちをくみ取り、少しMさんと館内を歩くことにしました。そしてMさんに昔の家族とのこと、体調のこと、昔のことなどMさんが覚えていることを引き出せるような会話を行ないました。すると普段訪問時には聞かないような身の上話を聞くことができました。
10分以上は館内を一緒に歩いたでしょうか。少ししてMさんが疲れてきたようでした。そしてMさんをあえて食堂に連れて行き、お茶を出しました。いつもの席に座ってもらい、私は沈黙を挟みながら話をしました。
お茶を飲み終えたので、「そろそろ帰りませんか?」とMさんに提案しました。それに納得したMさんを部屋に戻しました。その後部屋で静かに過ごしていました。
今回のMさんに行ったケアは万人に有効かどうかは分かりません。本人を縛り付けず、キツイ言葉を浴びせることもなく徘徊を止めさせることができたということで悪くない対応でした。
感じたことは徘徊に付き合うことが徘徊を止める最短で最善のケアであるということでした。徘徊をするのには理由があり、それを満たすために行っているものの、その「なぜ」を忘れてしまい、またなぜを問いかけても答えることはできない。けれど本人には理由があるので止めることなどできません。だから本人が納得するまで付き合うことで、その衝動が収まってきます。また歩く、話す、思い出すなどの行為は適度な疲れを生み、良い薬になります。
人でしか与えられない薬を工夫ひとつで使いこなしてみるのも良いのではないでしょうか。忙しい現場でありますが、是非使ってみてください。