認知症の人の周辺症状は様々ありますが、今回ご紹介する事例はトイレ介護に関する実体験です。
私が勤めている認知症のご利用者様は「トイレで排尿せず、廊下の決まった場所で排尿してしまう」ため、その対応策に介護士チームは苦労しました。
では一体、介護士チームはどんな対応策をとったのでしょうか?ご紹介していきます。
「トイレ(便器)は認識できず」廊下の特定の場所がトイレ?
認知症のM様(80代女性)は、要介護3ではありますが、認知症以外の目立ったご病気(症状)は無く、身体機能は何も問題なく、まさに「お元気な認知症」という状態でした。
このM様に対する介護で、介護士チームが困っていた事の1つに「トイレ以外の場所での放尿」がありました。
M様は尿意便意はあり、尿意や便意を感じていると思われるときは、席を立ち言葉を発しながら歩かれる様子がありました。認知機能が低下しているため『トイレ』等の言葉を発することはできません。
しかし、トイレにご案内すると(トイレまでお連れするのは認知症の影響もありスムーズではないため、介護士はひと苦労するのですが)、M様はトイレ(便座)には着座されないのです。表情が険しくなり、何やら不機嫌そうに(不穏状態)トイレを出ていこうとされるのです。
介護士が何とかトイレに戻るようにご案内(トイレ誘導)しようとすると、M様はますます不穏状態となり、トイレで排泄どころではなくなってしまうのです。
トイレでは排尿しないM様は、なぜか廊下の特定の場所に必ずといっていいほど、放尿されてしまいます。廊下で用を足した(放尿した)M様は「あー、スッキリした」と言って、ご自身の椅子やお部屋などに戻られて、穏やかにお過ごしになられるのです。
放尿する場所は決まっている!M様と介護士との知恵くらべ?
M様が放尿する場所は、廊下の特定の場所と決まっており、介護士はM様の放尿の度に後片づけをしなければなりません。何とか良い案はないだろうか・・・と介護士チームは対応策を練りました。
とにかく放尿する場所は決まっているので、試しにその場所にポータブルトイレを設置してみました。しかし、これは失敗で全く対応策にならず、M様はそのポータブルトイレの横で見事に放尿されました。
よく考えれば、トイレ(便座)が認識できてなさそうなM様に、ポータブルトイレなど認識できるはずもなかったのです。これは介護士チームの失敗策となりました。
次にやってみたのは、M様の放尿定位置に造花の鉢植えを置いてみました。しかし、これも失敗、全く意味を成さず、M様はそのとなりで普通に放尿されるのでした。
妙案が浮かばない介護士チーム、応急処置的にM様の放尿場所に尿吸収のためのシートを設置し、M様の放尿の度に片付けをしていましたが、根本解決策が思いつかないまま、日は過ぎていきました。
廊下に人の絵、そしてトイレに造花設置で成功へ
ある日、介護士の1人から「M様の放尿場所の下に人の絵でも描いたらどうか」との提案がありました。M様の廊下での放尿に困っていた介護士チームとしては「何でも試してみよう」ということで、M様の放尿場所の廊下(M様がしゃがむところ)に人の絵を描いてみました。
するとM様「こんなところに、かわいい子がいるなー」と、人の絵を人として認識し、ピタッと廊下での放尿が無くなったのです。介護士のアイデアが対応策として成功したのです!
しかし、本来のトイレにお連れすると不穏になってしまったので、廊下に人の絵を描く前に設置しておいた造花の鉢植えをトイレに持っていってみました。するとM様「これ、いつもおしっこするところで見てるね?ほんじゃあ、ここでしてもいいかな?」と、見事にトイレでも不穏とならずに便器の中に排尿してくださるようになったのです。
トイレ以外の場所での放尿、介護士のアイデアによる対応策 まとめ
認知症の方の排泄ケアは、時に難しく、介護士泣かせの事例も多々あります。
しかし、1つのアイデアから、認知症介護に関するテキストや座学の講義では学ぶ事のできない見事な対応策に結びつけることも可能です。認知症の方の排泄ケアに悩んでいる方は、ご本人様との知恵くらべだと思って、プラス思考で様々なアイデアを出して試してみるのも良い方法です。
今回ご紹介した内容が、認知症の排泄ケアに悩んでいる方の参考になれば幸いです。