養護老人ホームに入所されているTさん(87歳女性)は身体はとても元気な方ですが、認知症で要介護4が認定されている方でした。
養護老人ホームとは一体なにか
一般的な老人ホームのイメージとして特別養護老人ホームや老人保健施設(いわゆる「老健」と呼ばれているところ)を思い浮かべる方が多いと思いますが、養護老人ホームとは無年金だったり、年金が少なかったり等経済的理由で在宅での生活が難しい65歳以上の方が入所する老人ホームです。
なので、全く元気で自立されている方もいらっしゃれば、身体的に介助が必要な方、認知症の方もいらっしゃいます。
Tさんの症状
Tさんは歩行も自立されており、身体的には何も問題ありません。しかし、衣服を一人で着ることができなかったり(着衣失行)、トイレでの排泄の仕方や入浴の仕方が分からないといったように、物事を順序立てて行なう事が難しく、生活全てにおいて声かけや介助が必要な人でした。
また、意思疎通を図るのが難しく、こちらから話しかけても「ね〜。」「そうだよ。」「いやだ〜。」といった言葉が返ってくるのみでした。
認知症の方にだって感情はある
Tさんが入所している養護老人ホームには、自立されている方から要介護の認定を受けている方まで様々な高齢者が入所されています。中には自立されている方でTさんの事を馬鹿にした発言をしたり、3歳くらいの子供に話しかけるような口調で接したりする人もいます。もちろんそんな人ばかりではないですが。
不思議なもので、いくら認知症が進行していても馬鹿にされたり、赤ちゃん扱いされている事が分かるのです。そういう扱いをしてくる入所者さんに対しては不穏になったり、舌を出したり(あっかんべーのポーズ)しています。
しかし、普通にTさんと会話しようと話しかけたり、馬鹿にした態度を取らずに対等に接している入所者さんに対しては笑顔になって、例え会話が成り立たないにしても「そうだね〜。」「ね〜。」等と、とても機嫌良く受け答えされています。
認知症のTさんから学んだこと
今回Tさんを通して学んだことは、
〇認知症が進行していき、今まで出来ていたことが出来なくなったり、発語する単語が少なくなってしまっても、自分の事を馬鹿にされたり赤ちゃん扱いする入所者さんに対しては不快に思ったり、「この人嫌いだな〜。」という感情は芽生えるという事。これは家庭で認知症の家族を介護する際も同じです。
〇逆にきちんと対等に接してくれる利用者さんに対しては嬉しいや「この人好きだな〜。」という感情が芽生え、自然と笑顔が見られる事を学びました。
このことは、職場の会議の議題にも盛り込み、認知症の入所者さんに対する声かけや接遇の在り方を今一度再確認しました。入所者さんに対して「ちゃん」づけやあだ名で呼ばない。毎日顔を合わせるからといって、友達感覚で話をしない等基本的な事を再確認しました。
入所者さんは人生の先輩です。認知症があろうがなかろうが変わらない事だと思います。認知症が進行して出来る事、話す事が少なくなっても私達の人生の先輩として敬う気持ちで接していく事はとても大切な事です。
今日もTさんがたくさんの笑顔で1日が過ごせるようにお手伝いしていきたいと思います。