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認知症の周辺症状から起こる徘徊や暴力への対応の仕方(実例)

 

 デイサービス利用者のFさん(78歳)は、会計士の仕事をされていた方でした。元来のFさんの細やかな性格と前職の精密さを求められる仕事内容とが相まって、認知症発症後は神経質な精神状態が続いていました。例えば後で詳しく説明しますが「財布のお金が〇〇円足りない」「薬は毒ではないか」と疑い深い言動がよく現れていました。

 退職後、暫くしてから認知症を発症されたのですが、周辺症状が強く出ており、「家に帰りたい」と言いながら施設内の徘徊を頻繁に繰り返しておられました(参考記事「認知症の周辺症状ってどんな症状なの?」)。さらには妄想もあり、亡くなった人を生きているかのように話すこともあります。

 Fさんが徘徊し始めると、職員が傍に寄り添い、Fさんが納得されるまで、世間話をしながら一緒に施設内を歩いて回りました。その際に、Fさんがお話しになる「昔の話をさも、今のことかのように話す」妄想の世界を否定せず、ご本人の話す内容に合わせて相槌を打ったりしていました。

 例えば奥様は数年前に亡くなっているのですが、施設内の庭を見ながら「妻が今日もいちじくを取ってきてくれてね。柿も昨日干してくれた」というようなお話をしてくれました。その時に私は「じゃあ、この散歩が終わったら、奥様の用意してくれた果物を食べましょうね」と話を合わせていました。

 また、Fさんは黒い革の鞄をいつも持ってきていたのですが、時折、「中の財布からお金が盗まれた」と怒り心頭に職員に詰め寄る場面もみられました。その際は、Fさんのお話を伺い、一緒に財布の中身を確認し、ご本人が盗まれたと話す金額をお聞きしてから、「あとで警察に相談しましょう」と話すと、納得される場面が多くみられました。

 認知症患者さんの性格にもよりますが、周辺症状が強く出ている方の場合は「全面的に受け入れる」そして「否定しないこと」で症状の露出が弱まることが多いように感じます。

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周辺症状によって起こる被介護者からの暴力

 Fさんは、落ち着いているときは穏やかな方でしたが、一旦怒り出すと手が付けられず、職員や他の利用者に暴力を振るうことがありました。特に決められた服薬の時間に、薬を毒だと思い込み、「こんなものが飲めるか!」と怒鳴りながら、職員を殴るようなこともありました。

 そういう時は、「毒ではありませんよ、心配させてごめんなさい」とFさんに職員が謝り、Fさんの機嫌が直った時に、再びお薬を勧めるなどの対応をしていました。(Fさんは神経質で疑り深い性格でもあったので、10回も繰り返しお薬を勧めることもありました)

 また、他の認知症患者さんが、自分の持ち物を勝手に触ると怒り出し、手をあげる場面もみられました。その際は、職員が間に入って他の利用者への暴力を止めていました。話題の矛先を変えながらFさんの気持ちが落ち着くのを待っていましたが、そうしているうちにFさん自身、何に対して怒っていたのか忘れてしまうようでした。一例を挙げると以下のようにして話題を変えたことがありました。

Fさん「こいつが俺の鞄をとろうとしたんだ!」

私「大事な鞄なんですね」

Fさん「そうだよ、これは三越(デパートの名前)で買ったんだ」

私「三越ですか。Fさん甘いものが好きですよね? 三越の甘味処は行きましたか?」

Fさん「いやぁ、私は男だからねえ、外では行かなかったよ」
と、ここからしばらく二人でデパートの話をしていました。

 このように認知症患者さんから暴力行為がある時はご本人の興味を別なところに向けさせるのが一番だと感じました。

[参考記事]
「認知症の人の徘徊にどう対応しているの?」

「暴力が激しい認知症の父を思い出の公園に連れて行った結果」

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