以前に訪問介護で入らせていただいていたAさんは、大変温和で愛らしい風情の80代女性です。
ご自宅も立派で、在宅介護にも熱心に取り組まれるお子さんと同居されており、週に2回のデイサービスの他に、ご家族のレスパイト(休息)のために月に1−2回のショートスティも組み込まれていました。
デイサービスの送り出しと、通院介助のために訪問介護が入っていましたが、おおむね機嫌良く迎えてくださる方でした。
Aさんはレビー小体型認知症であり、幻視や幻聴を伴う症状が出ていました。Aさんの幻視は数ヶ月の間に徐々にエスカレートしてきました。
訪問するといつも食卓におられて、出勤前にご家族が用意された朝食やおやつを召し上がっておられましたが、お声がけすると機嫌良く、でも宙を指差して「ほらあそこから下がってる」と言われます。これは何年も前に亡くなられた夫が天井から首つりの状態で下がっているということでした(実際の亡くなり方とは関係ありません)。
最初こそ驚きましたが、驚いた態度は見せずに「あら大変ですね、天井から降ろしましょうか」とお伝えすれば「そのままにしておいたらいい」というお返事。手は菓子パンに伸び、美味しそうに召し上がりながら「いつも下がってるのよね」とおっしゃいます。
また他人が家の中を走り回るという幻視もよくありました。まだ独身のお子さんが実は結婚しており、子供が複数いて家の中を走り回っている、というような話です。
さらには、Aさんは介護ベッドでいつも休まれますが、ベッドの下に数名の大人と子供が潜っていて、出たり入ったりしているという内容もよく話されました。
想像するとびっくりするような内容ですが、ご本人にはしっかりと見えておられるのです。仲が思わしくなかったという姑さんなどは幻視に登場することはありませんでした。むしろ、愛情を持っていたり、心配していた方たちが日々登場しているようでした。
幻覚症状に対する対応
介護職として大切なことは、まずは「そんなことはないでしょう」と否定しないこと。本当はびっくりするような内容であっても「そうですか」と話を合わせることでAさんは落ち着かれたままディサービスや通院の準備をすることができます。
ご本人の中では、天井から下がっている夫の間をすり抜け、走り回る子供たちをよけながらディサービスに行く上着を着ているわけですが、介護職が落ち着いて対応することで、不穏になったりという変化は見られませんでした。
ただこれが、レビー小体認知症についてよく知らなかったり、経験が浅い介護職だと、ついつい驚いて態度に出てしまいます。
そうすると、その介護職の心の動き「怖い、びっくりした、気持ち悪い」などというマイナスの感情が発せられ、Aさんがそれをキャッチしてしまい、不安感を抱きます。
すると「今日はディサービスには行かない」という言動につながり、介護職もかえって対応に困るということになります。
認知症には様々な種類、また症状がありますが、利用者さんによっては、びっくりするような状態の人もいて、そこは介護職がしっかりと学び、またケアできるようにしていかなくてはなりません。
[参考記事]
「レビー小体型認知症ってどんな症状があるの?」