認知症による「弄便(便を触わる行為)」は介護者にとっても負担が大きいもので、その症状を引き起こさない対策は重要です。
介護を行う前提として、弄便を行っている本人は何らかの意味を持って、便を触っている事を認識する必要があります。今回は私が体験した弄便の症状と対策について紹介します。
ある日から弄便の症状が出始めた男性
Aさんは老人ホームに入居しています。アルツハイマー型認知症との診断を受け、記憶力や理解力に低下が見られていました。同時に下肢筋力の低下等によってトイレでの排泄が困難なため、オムツを着用していました(便秘気味だったため、下剤を使用していました)。
ある日職員が居室に伺うと、シーツや衣類に多量の便が付着していました。そしてAさんの手にも便が付着し、ご自分でオムツから便を取り出した様子でした。本人に慌てた様子はなく「これはいったい何だ」といった表情で便を見つめている状況です。
すぐに職員がAさんに声を掛けて便を拭き取り、浴室に誘導してシャワーにて身体を洗い流しました。今まで全く見られない症状が新たに出現した事で、何か心身に異変が生じているのではないかと職員会議で話し合う事になりました。
弄便の原因を分析する
Aさんは認知症の影響で、ご自分の言葉で弄便の理由を説明する事が困難です。そのため職員が日頃の様子から弄便の原因を分析して、対策を考える必要がありました。
職員会議では「陰部に痒みがあるのではないか」「(下痢便だったので)胃腸の調子が悪いのではないか」「オムツ交換の時間に問題があるのではないか」などの意見が出されました。そしてこういった意見を基にして、今後の対策を話し合っていったのです。
その結果今後の対策として
「医師の診察を受けて身体の状態を確認する」
「オムツ交換の時間を多くして陰部に違和感を感じないようにする」
「日頃から服用していた下剤の量を減らす」
という方法を取る事になりました。
医師が診察したところ、陰部や胃腸には異常はありませんでした。そして、オムツ交換の間隔を短くした事で徐々に弄便の症状は治まっていったのです。弄便の原因は下剤の量が本人には合わなかった、排便をしてからオムツ交換までの間隔が長い事で陰部に強い違和感を感じていた事だと考えられます。
認知症の方は言葉だけではなく行動で自分の意思を示してくる事があるため、日頃の状態観察が重要となるのです。