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幻覚と徘徊の症状がある認知症女性への対応事例

 

 私が介護を行った中で、95歳の女性の方がいました。この方をAさんとします。旦那さんを戦時中に亡くされてから女でひとつで子供を育てられ、曾孫まで産まれ、幸せに暮らしていました。朝早くから畑に出かけ、90歳を過ぎても元気に働いていたと言います。

 ある日、毎日行く畑から戻って来なかった時があり、家族が畑まで見に行くと、穴を掘り続けてるAさんを見つけたそうです。話しかけても答えもせず、一心不乱に穴を掘り続けるAさんを半ば強引に連れて帰って来たとの事でした。これまでは、このような異常な行動をすることはありませんでした。

 その後は徘徊、暴言等の症状が徐々に見られるようになり、ご家族で看る事が出来なくなったので、一時、精神病棟へ入院されました。ここでの診断は認知症とのことです。私共の老人介護施設に相談にいらしたのは丁度その時で、新しく建設されている施設ができ次第、そちらに入居する事になりました。

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幻覚が現れる

 Aさんが入居されてきた時、認知症の症状が相当、進んでいるのを感じました。下を向いて黙っていたかと思うと何処か一点を見つめブツブツと何か話し始めました。聞いても答える訳でもなく話しているので、その間はそっとしておきました。自室にこもる事が多く、最初は他利用者との接触は殆どありませんでした。

 幻覚を見て急に暴れる事もある為、Aさんの周りには物を置かないように心がけ、気持ちが穏やかになるようにA さんの好きだった曲を流したり、家族の写真を置くようにしました。

今までやっていた事が出来ないもどかしさ

 Aさんは誰にも頼る事なく一人で頑張って来た女性なので、施設に入ってからも掃除や洗濯物の畳み等も自分でやろうとしました。ですが畳み方が思い出せず、出来ない自分に腹が立ってしまう事が幾度もありました。そうしたイライラがたまってくると異食を行う為、Aさんのプライドを傷付けない対応が必要でした。

 洗濯物の畳みが出来ていなくても、プライドの高いAさんに対して「出来ていませんよ」と言うのは禁句でした。逆に「畳み方を教えて下さい」と言い、実際にAさんに畳み方を教えてもらったのです。出来ていなくてもAさんのプライドを傷付けないで、穏やかに過ごしてもらえる事が第一と考えました。

 しかし、出来ないことを教えてくださいというのは他の認知症の方の場合は逆効果になる時があります。ですがAさんの場合はプライドが高く、自分が出来ない事に対してストレスが溜まる人でした。加えてストレスがたまって異食をしてしまうので、職員間で話をし、あえてAさんに「畳み方を教えて下さい」と頼る形を取りました。洗濯物は後で職員が畳み直したのは言うまでもありません。ステレオタイプ的に「〇〇の時に△△をする」と決めてしまうと、柔軟な対応ができませんので、個々の性格に合わせて接し方を変えることがベストです。

施設の中を徘徊

 Aさんは入所してから数か月が経ってから施設の中を歩き回るようになりました。ただし徘徊は夜に限定されていて、物音がして見に行くとAさんが無表情のまま歩いていました。こういった方は止めないといつまで経っても歩き続ける反面、自分が満足するまで歩かないとまた起きて歩き始めます。

 この時は利用者の部屋まで音が届かない廊下で適度な時間、歩いてもらいました。自分が満足すると当たり前のように自室に戻って行きます。ただ、このような徘徊が一夜の中で何度もあるときには昼夜逆転してしまい、日中は眠くなってしまうことがありました。ですので、日中はなるべく頼み事をするようにして、適度な疲労感を得ることができるように心がけました。

暴言を吐いてしまった自分を責める心の葛藤

 先ほど書いたように、Aさんは感情のコントロールが上手く出来ない時が多々ありました。幻覚と闘って、ブツブツと何かを言っていたかと思うと急に暴言を吐き始め、時には暴れる事もありました。他利用者に被害が及ばないよう気を付けながらAさんを抑えますが、お年寄りといえども力が強い為、最低でも二人がかりで止めました。こういった時の対応のため、女性職員だけではなく、必ず男性職員も一人はいるようなシフトの組み方をしていました。

 一番辛いのはAさん本人です。暴言を吐いた後は段々落ち着いてくるのですが、その後は「何て事を言ってしまったんだ」と涙を流していました。周りよりもAさんが一番戦っているのだと考えさせられました。

[参考記事]
「捕虜を恐れて徘徊する認知症の男性についての事例」

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