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捕虜を恐れて徘徊する認知症の男性についての事例

 

Aさん(80代前半・男性)は、若いころから自営業で魚屋をされていました。早朝から夜遅くまで働き、戦後の物のない時代に一から築き上げたお店でした。

少し前に、店を閉め、住み慣れた家も売り、新居に引っ越してきました。物静かな郊外から自然豊かな慣れない土地という環境の中で、仕事を辞めたAさんは時間を持て余すようになりました。そんなAさんの唯一の楽しみは、一人で散歩に出かけることでした。最初の頃は、散歩に行っても帰ることができましたが、次第に認知症状も出てきました。どこに行くのか(何で散歩をしているのか)、どこが家なのかが分からなくなっていました。

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続く徘徊

奥様より、「昨日も帰ってこなくて、さっき警察の人と帰ってきた」と報告がありました。どうやら、昨日の午前中に散歩に行ったまま、帰宅されなかったようです。衣類も泥で汚れ、ズボンも穴が開き、膝を額も擦り剥いていました。自宅より30kmほど離れた道路の端に座っているところを保護されました。

何度もこのようなことがあり、奥様も疲れ果てGPSつきの電話をズボンの後ろポケットにつけるようになりました。息子様の協力もあり、夕方になっても帰ってこない時はGPSで探し、見つけることができました。ある時は、町の中、ある時は山の中。GPSがついているからといっても、すぐには見つかりません。茂みに入ってしまわれた時は、なかなか見つからず、捜索願を出すことも多くなってきました。

Aさんの徘徊の目的

ある時、ご本人様にいつもどこに行っているのかを尋ねると、「昔の家を探しているんや! そやけど、すぐに見つかって捕まったら捕虜にされるやろ! あれはかなわんわ… 生きて帰れるか分からんからな…」と、話されました。徘徊の一つの目的に過ぎないのでしょうが、最初は住み慣れた家の場所がどうなっているかが気になり、出かけているうちに訳が分からなくなり、不安になるようです。

実際に戦時中に捕虜になった経験はないのですが、嫌な思い出があるのか、人目につかないように山や茂みに隠れていることもあります。

徘徊への対応

息子さんがAさんを、住み慣れた場所へ連れて行ってくれたのですが、既に昔の家もなく、区画整理もされており、あまりにも変わりすぎていて、そこが住み慣れた場所と思えなかったようです。

その後も、Aさんの徘徊は続きました。そこで、Aさんは週に3回、持病の治療で受診されておられたので、ヘルパーと徒歩で受診(介護保険サービスと自費の併用)するサービスを導入しました。起伏の激しい歩道を、片道25分前後ですので、往復で約1時間くらいですヘルパーとも歩きながらたくさん話し、歩き疲れることで、受診の日は徘徊することなくゆっくり入眠できるようなりました。

しかし、受診日以外の徘徊の頻度は変わりませんでした。そこで、デイサービスの利用も始めました。そこのデイサービスは座位でのゲームや談話がメインのゆっくりしたものではなく、フロアも広く動線が長く、全身を動かす体操を毎日取り入れ、畑や花壇の水やりなどの活動的なデイサービスです。デイサービスやヘルパーの利用で他者と話したり、頼りにされる機会が増えたりすることで徘徊の頻度は減りました。

まとめ

介護者として長年働いていて感じることは高齢者の徘徊には、必ず目的があるということです。『○○に行きたい。』『○○が食べたい。』『○○に会いたい。』『○○を見つけたい。』など。

Aさんの場合は、『住み慣れた家に行きたい』ですが、なぜこのように思ったのかと言えば『新居や新しい環境に馴染めていないので安心できていない。』だったと思います。

このように徘徊の目的が分かった後は「なぜ、そうなるに至ったのか」を深く考えて対処することが大切です。Aさんは新居にも慣れ、デイサービスでの居場所もでき、安心して過ごせられるようになったので徘徊が落ち着いたのではと思います。徘徊リスクを下げるためにはGPSなどの機械も効果的ですが、その方の『なぜ、徘徊されるのか?』の、思いに寄り添い対応することが大切です。

[参考記事]
「認知症による徘徊が理学療法士との協力で解決した例」

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