高齢者の物忘れや行動の変化を見ると、すぐに「認知症では?」と心配になることがあります。しかし実際には、認知症に似た症状を引き起こす別の原因が潜んでいることも少なくありません。誤診や早合点によって、必要な治療が遅れてしまうこともあるため、正しい知識を身につけることが大切です。
本記事では、「認知症と間違えられやすい5つの症状」とその見分け方について詳しく解説します。
認知症とは?
まずは簡単に認知症について整理しましょう。認知症は、記憶力や判断力、言語能力、社会的スキルなど、認知機能が徐々に低下する病気の総称です。アルツハイマー型認知症や血管性認知症、レビー小体型認知症など、いくつかのタイプがあり、進行性であるのが特徴です。
認知症の症状には、以下のようなものが含まれます:
-
日付や場所の把握が困難になる
-
会話や単語がうまく出てこなくなる
-
感情のコントロールができなくなる
-
家族や友人を認識できなくなる
しかし、これらの症状と似たような現象は、実は別の病気や一時的な状態でも起こることがあります。
認知症と間違えやすい症状5選
1. うつ病(仮性認知症)
うつ病は、思考力や集中力が著しく低下することで「物忘れ」や「無気力」が目立ちます。これは“仮性認知症(仮性痴呆)”とも呼ばれ、認知症と非常に似た症状を示します。
🔍 見分けるポイント:
-
記憶そのものではなく、「やる気がない」ことによる情報の抜け
-
自分の不調を強く訴える傾向がある(認知症では自覚が乏しい)
-
抗うつ薬で改善する可能性が高い
💡 補足:
高齢者のうつは認識されにくく、認知症と誤診されやすい代表例です。
2. 甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンが不足すると、脳の代謝活動が低下し、記憶力や集中力が低下することがあります。特に高齢者では「ぼんやりする」「会話が遅れる」といった症状が出ることも。
🔍 見分けるポイント:
-
全身のだるさや寒がり、むくみなどの身体症状を伴う
-
血液検査で簡単に診断可能
-
ホルモン補充療法で改善が見込める
3. 脳腫瘍や慢性硬膜下血腫
脳に腫瘍や血腫(血の塊)ができることで、脳機能に影響を与え、認知症に似た症状を引き起こす場合があります。特に慢性硬膜下血腫は、高齢者の軽微な頭部外傷の後にゆっくりと進行します。
🔍 見分けるポイント:
-
頭痛、ふらつき、片側の手足のしびれや運動障害がある
-
急に症状が進行することが多い
-
CTやMRIで明確に診断可能
4. 薬の副作用(薬剤性認知症)
一部の薬(睡眠薬、抗不安薬、抗コリン薬など)は、認知機能に影響を及ぼすことがあります。高齢者は代謝機能が低下しているため、薬の影響を受けやすいです。
🔍 見分けるポイント:
-
新しい薬を飲み始めた直後に症状が現れる
-
服薬を中止・調整すると改善する場合がある
-
医師との連携が重要
5. 脱水・栄養不良
高齢者はのどの渇きを感じにくく、食欲も落ちやすいため、脱水や低栄養に陥りやすいです。これにより、一時的な意識障害や錯乱状態が起こることがあります。
🔍 見分けるポイント:
-
突然の混乱、無反応、意識低下
-
水分や栄養補給によって数日で改善
-
尿量や体重の減少もヒントになる
認知症との見分け方・チェックリスト
以下の点を意識することで、認知症との違いを見極めやすくなります:
チェック項目 | 認知症 | その他の症状(誤認例) |
---|---|---|
症状の進行 | 徐々に悪化 | 急激に出現することが多い |
自覚症状 | 乏しい | 本人が強く訴えることが多い |
意識レベル | 基本的に清明 | 混乱・ぼんやりが目立つ |
検査での所見 | MRIや認知検査で変化あり | 血液・薬歴・画像検査で異常が出る場合も |
まとめ:慌てず冷静に、まずは専門医へ相談を
高齢者の物忘れが見られたとき、すぐに「認知症だ」と決めつけるのは危険です。実際には、適切な治療やサポートによって改善できるケースも多く存在します。
重要なのは、「見逃さないこと」よりも「思い込みで決めつけないこと」です。家族や介護者が冷静に観察し、必要に応じて医師の診察を受けることが、本人にとって最善の選択につながります。
LEAVE A REPLY