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痴呆症という言葉が無くなった理由

「痴呆症」という言葉がなくなったって本当?

かつては高齢者の記憶障害や行動の変化を「痴呆症」と呼んでいた時代がありました。しかし現在、この言葉は公式には使われていません。代わって「認知症(にんちしょう)」という用語が広く用いられるようになりました。

この言葉の変更には、単なる言い換えではない深い背景があります。本記事では、「痴呆症」という言葉がなぜ使われなくなったのか、その理由と影響、そして言葉の持つ力について詳しく解説します。


痴呆症という言葉の語源と問題点

「痴呆」という言葉は、「知的な機能が衰え、日常生活に支障をきたす状態」を指す医学用語として長く使われてきました。1950年代から2000年代初頭までは、医療現場でも一般社会でも当たり前のように使用されていた言葉です。

しかし、その漢字の構成に大きな問題がありました。

  • 「痴」:愚かという意味を持つ侮蔑的な字

  • 「呆」:ぼんやりしている、鈍いという印象を与える字

この2文字の組み合わせは、当事者や家族に対して強いネガティブイメージや差別感情を植えつけてしまう恐れがあったのです。


言葉が当事者の尊厳を傷つける

「痴呆」と言われた人の多くは、自分が「バカにされた」「人として扱われていない」と感じることがありました。また、家族も「恥ずかしい」「隠したい」という思いを抱き、結果として孤立や介護疲れを助長してしまう事例も少なくありませんでした。

つまり、言葉一つで「病気への正しい理解」や「適切な支援」から人々を遠ざけてしまっていたのです。


用語変更のきっかけは2004年の厚生労働省通達

2004年、厚生労働省は「痴呆症」という用語の見直しを行い、「認知症」への呼称変更を正式に発表しました。

その理由は以下の3点です。

  1. 差別的・侮辱的な表現である「痴呆」の字義

  2. 社会的偏見を助長する恐れがある

  3. 当事者の尊厳や自立を尊重するため

この変更は、医療・福祉関係者のみならず、メディアや学校教育でも広く周知され、現在では「認知症」という言葉が社会に定着しています。


「認知症」はどういう意味?

「認知症」という言葉は、英語の “Dementia” を訳したもので、以下のように定義されます。

  • 一度獲得された認知機能(記憶、判断、理解、言語など)が慢性的に低下し、日常生活に支障をきたす状態

これは病名ではなく「症候群(症状のまとまり)」であり、その原因には以下のような病気が含まれます。

  • アルツハイマー病

  • 脳血管性認知症

  • レビー小体型認知症

  • 前頭側頭型認知症 など

「認知症」という呼び名は、病態をより正確に捉え、不要な差別や誤解を避けるためにも有効なのです。


言葉が変わることで何が変わったのか?

呼び名を「痴呆」から「認知症」に変えたことで、社会には以下のようなポジティブな変化が見られるようになりました。

  • 患者本人が病気を受け入れやすくなった

  • 家族や介護者が支援を求めやすくなった

  • 医療機関や行政との連携がスムーズになった

  • メディアが取り上げやすくなり、正しい知識の普及が進んだ

これは単なる「言葉狩り」ではなく、実際に人々の行動や意識を変える「言葉の力」の証明とも言えるでしょう。


海外ではどう呼ばれているのか?

英語では「Dementia(ディメンシア)」が一般的ですが、こちらもラテン語の “de”(否定)+ “mens”(精神)に由来し、「精神を失った」という意味が含まれています。

そのため、最近では「Cognitive impairment(認知機能障害)」や「Neurocognitive disorder(神経認知障害)」といった表現が好まれる傾向にあります。

つまり、海外でも「当事者の尊厳を守る呼称」が模索されているのです。


認知症の人を社会でどう支えていくか

呼び名の変更は大きな第一歩でしたが、それだけでは不十分です。今後ますます高齢化が進む日本では、認知症と共に生きる人が増え続けます。

だからこそ、以下のような社会の変化が求められています。

  • 認知症の人が「困った人」ではなく「地域の一員」として受け入れられる

  • 正しい知識と対応方法が学校や職場で学ばれる

  • 認知症フレンドリーな街づくりが進む

  • 本人の意思決定を尊重した支援が行われる

私たち一人ひとりが、「認知症=人格の消失」ではなく、「支援すれば自立して暮らせる存在」と理解することが、真の共生社会へのカギです。


まとめ:言葉を変えることは、心を変えること

「痴呆症」という言葉がなくなり、「認知症」という呼び名になった背景には、単なる言葉の言い換えを超えた、深い社会的・倫理的な意義があります。

言葉は私たちの価値観や行動を形作る重要なツールです。だからこそ、どんな言葉で誰かを呼ぶのかには、常に配慮と尊重が求められます。

認知症を抱える人々が安心して暮らせる社会の実現には、まず私たち一人ひとりが言葉の力を正しく理解し、「やさしい言葉」を選ぶことから始めましょう。

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