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認知症の母に虐待してしまうのを避けるため老人ホームを決断

今回の記事は家で認知症の母親を介護している40代の女性に書いていただきました。
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 母が認知症と診断されて3年が過ぎた頃、深夜にパジャマ姿で徘徊をしてどこかで転んでしまい大怪我をしたことがありました。3週間ほどの入院ですみましたが、それ以降、自分から出かけることが減ってきました。

 週に1回習いに行っていた墨絵はお休みをもらっているうちに行く気がなくなってしまったようです。他に趣味もなく昼間うたた寝をすることが増えて、半年もすると筋力も衰え足元がふらつくようになりました。

 そろそろデイサービスを進めてみようかと考えるようになっていましたが、サービスを受けるためには何をどうしたらいいのか分からずにいました。

 そんな折、母の知り合いが、片方の腕を骨折してショートステイを利用していると連絡がありました。その方は、独り暮らしのため片腕しか使えなくては不便なこともあるので骨折が治るまで特別養護老人ホームのショートステイを利用しているとのこと。

 お見舞いも兼ねて面会に行った時に、母も認知症だと施設の職員に話してみると「いつでも相談にのりますよ」と言ってくださったので、時間を作って相談に行ってみようと思っていました。

 その頃、私自身も体調を崩してしまい、体調の悪い中での介護にかなりストレスを感じていました。そのせいで母に対しての態度もひどくなり、きつい言葉で母を傷つけることもありました。

 同時に母の幻覚の症状も出ることが増え、深夜に家の中を歩き回ったり、家族から邪魔者扱いされていると泣きながら家を出ていこうとしたことが何度もありました。玄関の鍵を2重にしてあって出られないせいで余計に興奮して、殴ったり蹴ったりされることもありました。

 力の弱い母の暴力はそれほど痛くはなかったのですが、母の暴力を止めようとして出てくる私の言葉の暴力に母はますます傷ついて暴れることが増えました。

 そんなことが1か月ほど続いてお互いに精神的にぼろぼろになっていた日の深夜、ガタガタっと玄関を開けようとしているような音がしたので目を覚まして見に行くと、誰もいません。鍵は2つともかかっています。念のため母の寝室を見てみると、母がいません。

 訳が分からず玄関の鍵をあけて外をみたら、玄関からは外に出ていないはずの母が家の前の道路の真ん中に放心状態で立っていました。12月も末の寒い時期です。パジャマ姿ではなく服の上にはコートを着ていて、サンダルを履いていました。どこからか家の外に出た母は、玄関から家に入ろうとしたけれど鍵がかかっているため、道路までふらふら歩いて行ったのではないかと思います。

 その日は、夕方から幻覚をみていて、子供と話していたのです。その後、「夜になっても帰ってこないから子供たちを探しに行かなきゃ」と言っていたのですが、「夜だから家に帰ったんじゃないかな」と言って落ち着かせたところでした。

 しかし、納得はしていなかったようで、寒いのに玄関が閉まっていて子供たちが入れないから迎えに行かなくてはいけないと思ったようです。母を家の中に入れて、どこから外に出たのか確認してみると、1階の出窓からでした。腰よりも高い位置にある窓から飛び降りて、転ばなかったんだろうかと、顔や手、足などを確認してみましたが大丈夫でした。

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特別養護老人ホームへ相談に行く

 私には兄と妹がいますが、兄は県外で仕事をしていて帰ってくるのは正月とお盆ぐらい。妹も県外に嫁いでいるので帰省は年に1度です。そのため、母を私1人で看ています。しかし、このままでは母に振り回される毎日で私の精神が壊れそうでした。一刻も早く母と離れたいという気持ちが強くなりました。

 翌日から、ちょうど正月休みで帰省した兄に介護を代わってもらい、数日は体を休めることが出来ましたが母の幻覚も私の体調も治まりそうにありません。兄の休みが終わってしまい、私も微熱が下がらないままに、以前相談に行こうと思っていた特別養護老人ホームへ相談に行きました。

 すぐにでも母を受け入れて欲しい。そんな気持ちでしたが、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は費用が安く抑えられるため、入居申し込みをして待機している入居希望者が多数いるのです。なのですぐには入居するのは無理とのこと。空きがあったとしても介護度の高い順に入居になるので現実的に入居は難しいらしいのです。

 ではせめて、私の体の回復する間だけでもショートステイは出来ないだろうか?と聞いてみたところで、初めて、相談に行った事業所内のケアマネジャーを紹介していただけました。

 ショートステイをお願いすることになりましたが、心配なことが2つあります。1つはインシュリンの注射を毎食前と就寝前の計4回打つ必要があります。注射液のメモリ設定は私がやっていたものを施設内の看護師がやってくれて、母が自分で注射を打てるということでクリアでした。

 もう1つは、C型肝炎であるということ。血液で感染してしまうので共同生活では注意が必要です。ですが、施設の方でも看護師と相談しながら注意して見守ると言ってくださいました。お風呂などは順番を最後にして、もしもどこからか出血していても他の方に感染しないようにするとのことでした。こうしてとりあえず1週間のショートステイが決まりました。

 その間にしっかり休養をとって私自身の体調を戻さないといけません。ところが体調はよくなってきても心の方があまりおもわしくありませんでした。母が家に帰ってきてからのことを考えると体のだるさが戻ってきてしまい動かなくなってしまいます。

 ケアマネジャーに私の状態を相談すると、ショートステイの延長は可能なのでゆっくり治してくださいと言ってくださり、家に帰れない母には申し訳ないのですがあと1週間施設で介護していただくことにしました。その間の母の様子は、夜に部屋から出て施設のフロア内をうろうろすることはあっても暴れたり大声を出すようなことはないとのことでした。

私の母に対する行為は虐待?

 施設で預かっていただいている間に、今後の生活のことを考えました。今までのように私1人で介護するには限界があります。加えてここ1年の私の母に対する態度は、虐待だったのではないかと思いました。母を殴ることはしないにしても、ひどい言葉を投げつけたり命令口調になっていたり、無視することもありました。

 相手は病気だから仕方ないと頭ではわかっているのですが、罵倒する言葉はやみませんでした。例えば母といっしょに台所に立って不安な部分を介助しつつ一緒に作るのが理想だったのでしょうが、母がガスコンロの前に立とうものなら、私は声を荒げて「やらなくていいから座って待ってて」と言ってしまうのです。

 このまま母が家に戻ってきても同じことを繰り返してしまうのではないか。それはお互いによくないのでは・・・

 もっと落ち着いて考えれば方法はいくつもあったと思いますが、私の中では母に虐待をしてしまう自分自身が怖くて一刻も早く母と離れたいという思いが強くなりました。

 そして再度ショートステイを1週間延長して、その間に受け入れてくれる施設を探すことにしました。ケアマネジャーさんに、これ以上母に対して虐待をしたくないと私の心情を全て話して、グループホームをいくつか紹介していただきました。

 まず電話でグループホームの施設に確認したところ、すべてダメでした。インシュリンの注射とC型肝炎が理由でした。中には、そういう利用者さんを扱ったことがないからと言われたところもありました。

 落胆しつつも、他に方法がないだろうかとインターネットで調べていたら、『サービス付き高齢者住宅』なる文字が目に飛び込んできました。一般の老人ホームに比べて費用も安く、敷居は低そうです。金額だけ比べると、グループホームを利用するのと変わらないぐらいの料金で利用出来そうです。

 ただし、まだ分からない部分が多かったので、見学希望申請をしてみました。運よくその日にアポイントが取れて見学出来ることになり行ってみると、施設の作りもサービスもグループホームとさほど変わらないかなという印象でした。

 認知症であること、インシュリンの注射が必要であること、C型肝炎であることも伝えましたが、介護サービスを使いながら検討していくので大丈夫と言われ、涙が出る思いでした。

 すぐに入居希望の手続きをして、3週間のショートステイが終わると同時に、サービス付き高齢者住宅への引越しをしました。母には、私の体調が悪いのでしばらくはこちらでお世話になって欲しいと伝えました。

 『サービス付き高齢者住宅』とは、介護サービスがついている下宿のような感覚でしょうか。トイレ付きの個室があり、介護サービスは、通所介護などを利用します。同じ建物内にデイサービスルームがあるところもあります。メディアで取り上げられているサービス付き高齢者住宅のイメージは、マンションの個室のようなイメージが強いのですが、母が利用しているところは合宿所のようなイメージです。ただし、認知症受け入れ不可のところもあるようです。

 私は2件見学をさせていただきましたが、どちらも認知症受け入れOKでしたし、即入居出来ました。入居を決めたのは、隣のクリニックの院長がお昼休みに健康相談などをしてくれるとあったからです。スタッフも皆いい人達で仕事以上のことをしていただいています。

 母もすっかり慣れて、穏やかに生活出来ているおかげで幻覚の症状も減りました。私と母の関係もかなり良好になりました。以前のように、口を開けば罵りあうこともありません。それどころか面会時は笑って過ごせます。もっと早くなんらかの介護サービスを利用していれば母も私も限界までストレスを溜め込むこともなかったのでしょう。

 まだ必要ないと思っていても、利用したいサービスや施設など見学しておくべきだったと反省しています。そして限界までがんばりすぎないよう、これからもゆるりと介護していこうと思います。

[参考記事]
「認知症の母が幻覚で見える少女と話していてゾッとしました」

「[認知症による幻覚]喪服を着た人が隣の部屋で葬式をしている」

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