この記事は60代の男性に書いていただきました。
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【認知症の始まり】
私の父の認知症が始まったのは一人暮らしをするようになってからです。あるときから冷蔵庫には、賞味期限切れの食品でいっぱいになりました。毎日同じものをたくさん買ってしまうのです。私が毎週土日に実家に行って整理するのですが、大きなポリ袋で6袋にもなりました。それを私の車に積み込んで自宅に持ち帰っていました。
【近所の人が生ゴミを庭に】
私が父の家の前に車を止めると近所の人も気が付くのでしょうか、誰かが生ごみの袋を庭に黙って置いていくのです。恐らく父が曜日もしくは時間に遅れて出した生ごみです。ひと声ぐらいかけていけば良いのにと思いました。
【不必要な買い物】
通販業者の電話によるセールスが増え、30万円もする絵や、高価なサプリメントがどんどん届くようになりました。クーリングオフの効くものは、次々と断りました。また通販の会社にも電話でのセールスを止めてもらいました。
怪しい業者から、床下のシロアリ駆除で20万円、訪問販売で4万円もするお味噌も買わされました。屋根の修理業者と400万円かかる契約をしましたが、私が電話で断り、間に合いました。
あるとき家の駐車場に新しいスチール製の物置が設置してありました。中を見ると、段ボールなど紙類やプラスチックごみの山でした。家にはすでに大きな物置がありますので、なぜ物置を買ったのかを父に聞くと、「オレは何も言っていない。業者が勝手に置いていった」と言います。テーブルの上には、その物置の振込用紙が置いてありました。
怪しい業者間では、一人暮らしの老人達の名簿があるらしいのです。私は玄関に「訪問セールスお断り、強引な押し売りは警察に連絡いたします」という張り紙を貼りました。
【どろぼうが来た】
父が「毎晩、夜中にどろぼうが来て部屋の中のものを動かしている」と言うのです。あまりに言うものですから、防犯カメラや防犯センサーなどを取り付けました。防犯カメラのモニターを見ると毎晩2時に誰かが門を入ってきます。警察の方に来てもらいモニターを調べた結果、「新聞配達の人」でした。夜中の2時に朝刊が配達されるのにびっくりしました。もちろん、配達員は部屋には入ってきていません。この時から父の妄想が始まっていたのだと思います。
【茶筒にダシ】
テーブルの上の茶筒を開けると顆粒状のダシがいっぱい詰まっていました。「お茶じゃなくて、ダシが入っているよ」と言うと、「オレは知らない、お前が入れたんだ」と言い張ります。父は自分の間違いを認めようとはしないのです。人のせいにするのも認知症の症状のひとつです。
【通帳と印鑑】
「通帳がなくなった」と父から電話が来ました。妻が駆けつけると、タンスの上にあるのです。自分で置いた場所をすぐに忘れてしまうのです。私が通帳を預かると、「オレの通帳を返せ」と怒り出しました。「何に使うの?」と訊くと、「A子とデパートに行く」と言うのです。A子というのは、元の勤め先にいた女性です。母の死後、父に近づいて「おねだり」をしているのです。
案の定、父のカードで高価な洋服を購入し、全部で103万円を使われてしまいました。幸い、カードは取り戻しましたが、今後のこともあるので、カードを使用停止にしました。私は銀行に相談しましたが、銀行では本人確認さえできれば、お金をおろすことができると言うのです。
【成年後見人を検討】
私は成年後見人になるしかないと、司法書士さんに相談しました。手続きに病院の診断書や法務局の書類などをそろえて家庭裁判所に行かなくてはなりません。私の妻が父のかかりつけのクリニックに、紹介状を頼みに行きました。ところがクリニックの先生が、陰険な先生で取り合ってくれないと言うのです。父は、その先生にだいぶ迷惑をかけていたのでした。待合室で、「いつまで待たすんだ、オレは帰るぞ」と怒鳴り散らしたそうです。看護師さんも手を焼いたそうです。妻は、ひたすら謝って事情を話し、ようやく紹介状を書いてもらいました。
ちなみに診断書の費用は、5万円でした。医者によっては10万円と言うこともあるそうです。高い検査料も払っているのに、診断書にそんなにお金がかかるとは思っていませんでした。
【配慮のない医師の態度】
総合病院で父の検査が終わり、診察室で医師に呼ばれました。父のいる前で「認知症がだいぶ進んでいますね。どこの施設に入れるんですか」と大きな声で、私に言うのです。なんと思いやりのない医師なのでしょう。父には認知症の告知をしていないですので、憮然としていました。
医師がいきなりこんなことを言った理由は、自分の病院に併設している介護施設に勧誘したかったようです。その後、見学をさせていただきましたが、入居者に笑顔がありません。温かい扱いを受けているようには見えませんでした。
【仏壇に他人の位牌がある?】
父が突然、「仏壇に他人の位牌が入っている」と言うのです。私は仏壇を調べてみました。「お父さん、これはお母さんの位牌だよ」と言いましたが、分からない様子です。壁にかかった母の写真を見せて、「お母さんのことを忘れたの?」と何度も言うと、ようやく「ああ、そうか」と納得したようでした。
この時、思い出したように、「A子と結婚したい」などと言い始めました。父は私に「A子に会ってくれ」と言います。私も迷いましたが、A子の住むマンションへ父を車に乗せて会いに行きました。父が言うには、「A子の父親がガンで亡くなったときに、オレがすべての財産をA子に相続させてやったんだ」と言います。A子には、姉がいますが、財産を相続させなかったと言うのです。父がどんな悪だくみをしたのか分かりませんが、A子の姉は恨んでいることでしょう。
A子のマンションに着くと、二人はすっかり夫婦気取りなのでびっくりしました。父はその時84歳です。A子は64歳でした。20の開きがありますが、A子は、父のひざに手を置いて、「ねえ、あなた」と甘い声で語りかけます。「なんという女狐め」と思いました。
父は母の遺品の宝石は売ってしまうし、高価な茶道具は近所の人にやってしまうし、和服も親戚にあげてしまったので、母の形見はひとつも残っていませんでした。認知症なのに、歳に似合わず恋に狂うのには、あきれてしまいました。
【3分ごとに電話が】
その後A子は、胸が痛いと言い出しました。検査をすると小さな肺がんが発見され、半年後に手術しました。退院後もA子は体調が悪いようでした。それでも父が頻繁にA子のところに、「A子ちゃ~ん、元気~」と電話していたのです。A子も対応しきれなくなったようで、電話を断ったそうです。「あれだけ面倒をみたのに」と父は悔しがっていました。
今度は、父は3分おきに私の家に電話をかけてきたので、妻もノイローゼになりました。冬の寒い夕方に、「石油ストーブに灯油がない」と言ってきました。灯油缶は、外の物置に置いてありますが、「鍵をなくした」と言うのです。またもや妻は父の家にいき、鍵を探しましたが見つかりません。そこでいつも灯油を買っている店に来てもらって、臨時に給油してもらいました。
部屋が暖かくなり、ホッとしたのでしょうか、父は「A子とは再婚しない」と言い出しました。「2度も葬式を出したくない」と言うのです。母が病気がちで、父が買い物や炊事をしたので、懲りたようです。父は、A子に対しても病気になった女性にもこりごりだと思ったようでした。
【鍋をこがしてあやうく火災】
父は居眠りをして2つも鍋を焦がしていました。よく火災にならないで済んだものです。早く介護施設に入れた方が良さそうでした。いろいろ探して、ある介護施設に入居の手続きをしました。
父は介護施設に着くと、「ここはどこだ、オレは帰る」と騒ぎ出しました。施設長にあとのことをお願いし、帰りました。父は「帰る、帰る」とその後1年間、騒いでいました。
驚いたことに、父は介護施設の事務所に勝手に入り込み、A子に電話をしたのです。これにはA子もびっくりして、「どこの介護施設なの?これから会いに行く」と言ったそうです。施設長は、「ご家族の了解がなければ、会わすことはできません」と断ってくれたそうなので、ホッとしました。それからは事務所のドアに「関係者以外立ち入り禁止」と張り紙をしていました。
今現在も施設でお世話になっていますが、以前よりは落ち着いて暮らしています。
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