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小規模な法人の介護事業運営の厳しさとその対策

 

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揺れ動く介護保険法

 5年前に法人を立ち上げ、デイサービスの運営を始めました。当初は「比較的手軽に開業できる」理由から、定員10名以下のデイサービスを立ち上げる事業者が多く、また異業種からの参入も大変多かったと記憶しています。

 私自身はそれまで約10年ほど高齢者介護の世界を経験し、自分にとっての理想の通所施設を作り上げたいとの大きな志をもって独立への道を歩みはじめました。

 5年前の介護保険に関する政府の方針としては「施設から在宅への転換」でした。医療機関の病棟への圧迫や老人施設の過大な入所待ちなど施設で高齢者を看てもらうスタイルがそのパイを大幅にオーバーし、その分、在宅介護を手厚くして出来るだけ在宅で看られるスタンスを作ろうとしている時期でした。

 平成27年に介護保険法が改正され、基本的にはそのスタンスが継承されているのですが、在宅介護の対象者を幅広くまた具体的に絞り込んできました。それが「重度要介護者」と「認知症要介護者」への手厚いサービスです。

 またどんどん増加していく小規模デイサービスに流れる介護給付を抑制するため介護報酬の大幅見直しも行われました。そこで、小規模デイサービスは今後のその事業運営の課題を突き付けられたのです。

法改正から見る国の介護福祉への方針

 先の平成27年介護保険法改正により、小規模デイサービスは介護報酬の基本単価が要介護と要支援合わせて概ね10%ほど減少しました(弊社事業所の額として)。

 政府は介護報酬の基本単価を見直す代わりに「認知症加算」と「中重度者ケア体制加算」を新設しました。政府の介護保険に対する方針に従い、「認知症」や「中重度者」の介護に力を入れて取り組めば、その加算で法改正前と変わらない介護報酬を得ることが出来るというのが主旨であるようです。

 では実際にそれら加算の要件を見てみると、通常より手厚い人員配置や認知症・中重度者の受け入れ人数の割合増など特に小規模デイサービスにとってはハードルが高いものばかりです。

 特に1施設のみで運営している法人は複数施設を展開している法人と違い、他施設との収支や人員配置のバランスで調整する事が出来ず、正にその1施設内のみでやり繰りをしていかないといけないので、手厚い人員=スタッフの追加採用となってしまいます。そのためもちろん人件費は増加してしまいます。

 また小規模デイサービスは民家を使ったり簡易な施設で、また手頃な設備投資で開業しているところも多く、特に重度者を受け入れるには限界がある法人もあります。

 結果、私が知っているだけでも小規模デイサービスで「認知症加算」や「中重度者ケア体制加算」を付けることが出来る施設はほとんどなく、実質的には基本単価の減少のみですなわち収益の減少となっています。これは例外なく全国の大多数の小規模デイサービスに該当する事だと思われます。

平成30年の医療介護のW改定で苦境に

 平成30年に医療介護のW改定を迎えます。すでに騒がれているのは、先の法改正よりも更に厳しい見直しがあるであろうという事です。

 また新設されている「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」への移行も、小規模デイサービスの運営に大きく影響が出てくると考えられます。

介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」という。)については、市町村が中心となって、地域の実情に応じて、住民等の多様な主体が参画し、多様なサービスを充実することにより、地域の支え合いの体制づくりを推進し、要支援者等に対する効果的かつ効率的な支援等を可能とすることを目指すものです。
平成27年4月施行とされている総合事業の実施については、市町村の判断により、事業開始を平成29年3月末まで猶予することができ、利用者の居住地が総合事業を実施している場合には、以下の利用の流れに沿いサービスが利用可能です。

厚生労働省のホームページより引用

 まず現段階では要支援者が介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)へと移行されます。介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)では各行政によってサービス単価が決められ、しかもその単価は現在の介護報酬を上回ることはなく、むしろ単価を下げられることが想定されています。

 先の法改正にて要支援者の単価は特に大幅に下がりました。そこから更に介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)への移行によって下げられる可能性が高いと予想されています。

 またこれはまだまだ「うわさ」の段階でしかないのですが、将来的には軽度要介護者(要介護1,2程度)の方も介護保険から切り離し、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)への移行も検討されているようです。

 それらを考えると、平成30年の医療介護W改定での単価見直しに合わせ、介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)への移行による更なる単価の減少があると小規模デイサービスは存続の危機を迎える施設も少ないと思われます。

これからの小規模デイサービスの方向性と取り組み

 それらを乗り切っていくために、現状の事業運営のままでは難しくなっていく事は容易に推察されます。そこでまず介護保険事業として打っていく手としては、政府の方針である「認知症」や「中重度要介護者」に特化していく方向性があります。

 また思い切って介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)をメインとして展開していく方向性も考えられます。そこで「多様なサービス」として位置づけられている「通所型サービスA(緩和した基準によるサービス)」への転換にて軽度の利用者を受け入れ、また人員の緩和によって『売上は下がるが経費も下がる』という方向性もありではないかと思われます。

 いずれにせよ、かなり高いハードルをクリアしていかないといけない現状があるのですが、安定した運営を目指すには取り組んでいかなければならない早急の課題でもあります。

厚生労働省のホームページより引用

介護保険外事業も選択肢のひとつとなる

 超高齢社会にあっては介護保険事業ではどうしても先細りの感は否めません。そこでもう一つ考えられるのが「介護保険外事業」です。

一般的に介護保険の家事援助の範囲に含まれないと考えられる事例

1.「直接本人の援助」に該当しない行為
主として家族の利便に供する行為又は家族が行うことが適当であると判断される行為
利用者以外のものに係る洗濯、調理、買い物、布団干し
主として利用者が使用する居室等以外の掃除
来客の応接(お茶、食事の手配等)
自家用車の洗車・清掃等

2.「日常生活の援助」に該当しない行為
[1]訪問介護員が行わなくても日常生活を営むのに支障が生じないと判断される行為
草むしり
花木の水やり
犬の散歩等ペットの世話等

[2]日常的に行われる家事の範囲を超える行為
家具・電気器具等の移動、修繕、模様替え
大掃除、窓のガラス磨き、床のワックスがけ
室内外家屋の修理、ペンキ塗り
植木の剪定等の園芸
正月、節句等のために特別な手間をかけて行う調理等

厚生労働省のホームページより引用

 すでにいろいろと取り組んでおられる法人は多く、後発だと同様の事をしていては収益もあまり期待できないと思われますが、「高齢者にとって必要なサービス」をよく熟慮して展開していけば、まだまだチャンスは多いと思います。

 超高齢社会という事は高齢者がどんどん増えるという事であり、すなわち介護事業者にとっては顧客が増える可能性が高いという事でもあります。

 その高齢者の方々にヒットするものを展開できれば、揺れ動く介護保険法に左右されることなく安定した法人経営が出来るかもしれません。特に小規模デイサービス1施設運営の法人は力も弱く、これから来る荒波に飲まれてしまうところも多くなってくると思われます。

 しかしそういう施設こそ、志を持って開業した経営者も少ないと思います。また利用する方にとっては、そういった高い志を持った事業者を利用するメリットは大きいと思います。その方々を守るためにも、今が踏ん張りどころ、転換へのターニングポイントと言えるでしょう。

[参考記事]
「認知症の通所介護(デイサービス)はどのように選んだらいいの?」

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