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認知症による帰宅願望が息子からの手紙の効果で無くなった事例

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●体験利用に向けて

ケアマネジャーさんより、こちらの小規模デイサービスに認知症の方、Tさん(男性81歳)の体験利用希望が入りました。
その方は現役時代には大手食品会社の管理職を務めあげ、安定した年金と退職金でご夫婦2人暮らしをされています。
最近では認知症状が出始め、ほとんど家から出る事なく引き籠っておられるため、何か所かデイサービスを体験利用したけどどこでも帰宅願望が出て対応できなかったとの事でした。
そこで民家を利用した家庭的なこちらのデイサービスにもお声が掛かり、「いかにも施設といった所でなく、家庭的な雰囲気であれば何とかなるかも」との多大な期待をいただきました。

当方に期待をされたケアマネジャーさんは何とかこちらのデイサービスへの利用に繋がればとたくさんの情報を下さいました。
家庭環境や性格・習慣はもちろんの事、趣味や嗜好なども事詳細に教えていただきました。
また、長年大手企業の管理職であった事から非常にプライドが高く厳格で頑固であるため、より丁寧な対応でお願いしますとも伝えられました。
それらの情報をスタッフ全員で共有し、我々も体験利用に挑みました。

●ケアマネジャーさんからの情報を元に…

迎えた体験利用日当日。
いただいた情報からスタッフはそれぞれがTさんの人物像を想像し、幾ばくかの緊張を覚えていました。
そして送迎スタッフがご自宅までお迎えに上がり、デイサービスに到着された時Tさんは「確かに厳格で難しそうな感じ」そのものでした。

ご自宅から出られる時は奥様や息子様、見送りに来たケアマネジャーさんから上手く説明されていたようで気持ちよく車に乗って下さいました。
しかし、見たことない新しい施設に足を踏み入れた途端、顔色が見る見る変わっていって険しい表情になっておられました。
こちらのデイサービスでは普通の民家を利用していることもあってスタッフは出来るだけフランクにご利用者と接することによって、より家庭的な雰囲気を醸し出しております。
しかしながらTさんに接するスタッフはケアマネジャーさんからの情報を元に非常に丁寧な接客で対応し、そのお席だけ少し違った空気が流れているようでもありました。

「Tさんが勤めていたAと言う会社ではどんなことをされていたのですか?」など、まずはお勤めであったA社の話を色々と聞かせていただきました。
その時はTさんは誇らしげに色々な体験談などをお話して下さいました。

次に趣味の話に移行していきました。
ケアマネージャーさんからTさんの趣味として聞いていた「考古学」「模型」「カメラ」「パソコン」…。
しかしこれらの話にはどれも食いついてもらえませんでした。
Tさんの表情はA社の話をしていた時とうって変わって見る見る険しくなっていき、終いには「なぜこんな所に居るのか分からない。もう帰ります」と仰るまでTさんの気分が落ち込んでしまい、昼食も拒否され、激高される寸前までいってしまいました。
そこで息子さんに電話をして状況を説明した所、息子さんから「私が手紙を書いてそちらにFAXするので、それを見せてみて下さい」と言われて、程なくしてFAXで手紙を送って下さいました。
息子さんはよく海外への長期出張がありTさんの事はほとんどお母様任せであるため、少しでもお母様の負担を軽減しようと息子さんも必死に考えて下さっていました。

●息子さんからの手紙は効果絶大!

息子さんからいただいた手紙は、息子さんからお父様(Tさん)に宛てたもので、「お父さんへ。K(息子さん)です。今日はお母さんが留守なので、そちらで昼食を食べて下さい。夕方にスタッフの人が自宅まで送って下さいます。楽しく過ごして下さいネ。K」と書かれていました。
その手紙をすぐにTさんに見ていただくと、「K(息子さん)がそう言っているのなら…」と言って納得してご飯を食べて下さいました。
そこから夕方のお送りまで、何度か同じようなやり取りをして息子さんの手紙を見ていただいたのは言うまでもありません。
しかし先ほどのように激高される寸前まではいきませんでした。

●ケアマネージャさんからの情報が「全て」なのか?

昼食後も何度か帰宅願望を仰っていたのですが、表情はそんなに落ち込むことはありませんでした。
それはスタッフのTさんに対する対応方法を一変させたからです。
それまではケアマネジャーさんの情報通り、「厳格でプライドが高い」方としていかにも「T様!」と呼ばんばかりの対応をしてきたのですが、趣味の話からもケアマネジャーさんの情報の真偽に疑問があったため、こちらのデイサービスの方針である「フランクな対応」に切り替えました。
それまでは例えば「TさんはA社という会社にお勤めだったのですね。A社ではどのような仕事をなさっていたのですか?」という堅苦しい声掛けだったのに対し、フランクな対応に切り替えて「TさんはA社に勤めていたの?どんな仕事してたの?」と気さくに話しかけるようにしました。
するとTさんは見る見る穏やかな表情に変わっていき、「飲み屋の接待でこんなことがあった」など非常に砕けたお話をしてくださるようになりました。
その際にも時々帰宅願望はありましたが、「夕方に送りますよ」と説明すると納得してくださる事が多くなりました。

●自分たちの接遇スタンスを大切にしていきたい

それから約1年。
現在では週3回利用して下さり、時々帰宅願望も見られますが安定してご利用くださっています。
そして奥様はご主人が居ない自分の時間が作れたので趣味活動をされたり、息子さんも安心して長期出張に出られたりしています。
Tさんのお陰でスタッフも色々と学ばせていただきました。
まず一つは「ケアマネジャーさんの情報を鵜呑みにしない」という事。
そしてもう一つは、「施設や自分たちの方針・やり方を大切にし、それを貫き通す」事です。
体験利用1日だけだとどのようにも接する事が出来るのですが、その後の本利用となる事を考えると、「自分たちで直接情報を集めて、自分たちのスタンスで接していく」ことこそが、その後の長いお付き合いをしていく上で大切なことであると学ばせていただく事が出来ました。

[参考記事]
「認知症による帰宅願望の原因が便秘だった事例」

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