アルツハイマー型認知症のMさん(80代女性)が初めてデイケア(通所リハビリ)にいらした時は、他のメンバーさんから見えない場所(キッチンなど)に小さくなって座っておられ、いくらお声掛けしても、そこから動くことすらされませんでした。
デイケアには向いてないかもしれないとまで考えましたが、ご家族のたってのご希望、「家に一人で置いておけない」ということで、なんとか馴染んでいただく努力を始めました。
デイケアに慣れてもらうための対策1
まずは、個別対応からです。「あらMさん、ここにいらしたんですか」とさりげなくお声掛けし、Mさんの興味のある話題をさぐります。こういうとき、無難なのは子どもの頃、若かったころの話題です。
「寒いですね。小さい頃、焚き火、しました? わたし焚き火が大好きなんです!」
「ステキなマフラーですね。ご自分で編み物をしたことはおありですか?」などです。
そこから、何かきっかけを掴めれば、話を拡げていけます。なかなかヒットしない場合も多々ありますが、Mさんの場合は、若い頃、編み物をお仕事にされていたことを、ご家族からうかがっていました。事前に関係者の方々から、情報を得ておくことは、コミュニケーションを円滑するのにとても役立ちます。最近の記憶、例えば「朝なにを召し上がったんですか?」などは忘れがちですので、避けましょう。
認知症の方は、ご自分の分からないことを聞かれると、焦って作り話をしたり、全く異なった話題に移ったりします。この時は、「かなり追い込まれたお気持ち」でいると考えられます。Mさんは会話を重ねるうち、早口になるときは作り話をされていることが分かってきました。作り話をして、なんとか返事をしようとするのは、とても疲れることなのは認知症の方でなくても想像できますよね。
また、お話するうち、Mさんは、子供の頃から引っ込み思案で、恥ずかしがり屋だったことが分かってきました。そのような性格のMさんは全く知らない場所に連れてこられ、知らない人の中に入っていくのが、ご本人にとってとても困難なのは理解できました。一人でもお友だちができればいいのですが、それも難しいようです。職員がつきっぱなしというのも、残念ながら限界があります。
デイケアに慣れてもらうための対策2
Mさんは、レクリエーション、お食事、おやつのみでなく、お手洗いにも拒否反応を示しました。このままでは、膀胱炎などになりかねませんので、まずは身体的健康状態を保っていただくため、スタッフ用のお手洗いに誘導し、お食事は個室でとっていただくようにしましたが、なかなか上手くいきません。
小手先の対応では限界があると思い、そこで自分の役割を持っていただくよう誘導してみました。Mさんが好んで隠れていたのは台所です。そこで、おやつの片付け、洗い物などをMさんにお願いしてみました。すると、見違えるように動いてくれるようになりました。
それに慣れたあと、他のメンバーの皆さまにお茶を出すお手伝いをお願いしました。他のメンバー様に「ありがとう」と言われることで、少しずつ慣れていってくれたようです。
お茶出しをしばらく続けていただいたところ、レクリエーションの時間に少し離れたところではありますが、座ってくれるようになりました。また、レクリエーションの時間に指名してみると、答えてくださるようにもなりました。自分だけ仕事を頼まれたことで自信が出てきたのかもしれません。
この後も、また隠れてしまうことは、ままありましたが、デイケアに通ってくださるご負担は少なくなったようで、帰る時刻を繰り返し訊かれることが減ってきました。人間、いつまでも、自分が必要とされていると感じることが、活力になるのだと学ばされるケースでした。
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