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東日本大震災のストレスが原因で認知症になった女性への対応

 

特別養護老人ホームに入所して半年になるSさん。年齢は94歳、女性、要介護3、壁や手すりをつたいながら独歩が可能な方です。

日課の行動や場所の理解、意思の伝達等はある程度できますが、自分から何かを伝えたり、会話をしたりはしません。職員から話しかけても、頷くか特に何の返答もない事が多いです。

Sさんは、東日本大震災により他県から避難されてきた方です。独居生活中に被災しましたが家族や親戚が居ないため、一先ず避難所生活になりました。しかし環境の変化により、徘徊や放尿など認知症の症状が見られるようになり、避難所での生活は難しくなり、現在の施設に入所になりました。

東日本大震災の前は認知症の診断を受けていませんでしたので、震災によるストレスが原因で認知症の症状が現れたのではないかと思います。2016年に発生した熊本地震の時にも熊本県には認知症に関する相談が多く寄せられましたので、決して地震と認知症は無関係ではないのです。

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他入居者や職員の食べ物を盗食

入所当時は、居室に閉じこもりがちでした。食事やトイレ、お風呂以外は居室で寝ている生活で、行事や散歩の声かけをしても布団から出てきてくれませんでした。

入所して半年ごろになると施設での生活が慣れてきたのか、Sさんは少しずつ居室から出てくるようになりました。そして、その頃から盗食が見られるようになりました。

Sさんは食べるのがとても早いです。食事が運ばれてくると、1番大きな茶碗にご飯やおかずを全部入れてかきこむように食べます。5分もあれば終わってしまいます。

そして一度居室へ戻り、少し経つと再度食堂に出てきて、隣や前に座る入居者の食事を食べてしまいます。職員はSさんが盗食しそうな時には『Sさんはもう食べ終わりましたよ、それは⚪⚪さんのですよ』と声をかけていました。

しかしSさんは、職員が近くにいないときや、別の入居者の対応をしているのを見計らって盗食を繰り返しました。さらに夜勤者のご飯も職員の目を盗んで食べるようになりました。

盗食によりSさんは他入居者とのトラブルが増えました。職員もSさんに対して『ダメですよ』『何しているんですか』と常にSさんの行動を見はり、何かあると注意ばかりの対応になっていました。

盗食に対する2つの対策

職場では、盗食や早食いに関するSさんのカンファレンスが開かれました。

Sさんは体型は痩せており、認知症や高血圧の他には病気はありませんでした。栄養士からはSさんが自分の食事以外に何か食べたとしてもカロリー面では問題はないと話がありました。

しかし、早食いや丸飲みは胃にも負担がかかるので良くありません。さらに、よく咀嚼しないために満腹中枢が満たされず、常に空腹な感覚なのではないかという意見が出ました。

これらの意見から、2つの対策をたてました。

1つはSさんにゆっくり食べてもらうために、食事を小分けにして提供する(早食いに関する対策)。

2つめは、Sさん個別のおやつを購入し、食後などいつも盗食する時間帯に提供することになりました(盗食に関する対策)。

まず1つ目の対策として、いくつかの小鉢におかずやご飯を別けて提供しました。見た目も、Sさんのお膳だけたくさんの食事が出されているように感じられ、一まとめにしようにも小さい器しかないので、Sさんは一品ずつ食べるようになりました。この対策により、食べるペースはゆっくりになりましたので、早食いに関しての対応は成功です。

2つ目の、お菓子を提供する対策では、食後にお菓子を提供してもSさんはなかなか食べようとせず、いつものように居室へ戻り、少したつと再度リビングに出てきて、自分の席に座ります。すると今度は、先ほど食べなかった目の前にあるお菓子をサッと取って食べます。

なぜ、食後はお菓子を食べないのに、戻ってきてすぐにお菓子を食べたのか、Sさんの様子を見ていた職員はあることに気がつきました。一度居室に戻ることで、Sさんは食事を食べたことを忘れてしまっているのではないかと考えました。そのように他の職員から言われてから、よくよくSさんの行動を振り返ると、確かにSさんは食後に居室に戻り、出てくると盗食をしていました。

まとめ

今回の対策とその結果を考察すると、Sさんにとって、人の食べ物を食べているのは、『盗食』ではなく、『自分はまだ何も食べてないのに』『皆は食べていて、私のは無い』『ご飯が食べられないなら出ているものを食べる』という認識だったと思います。それに気がつかず、職員は『ダメですよ』『それは他の人のですよ』など威圧的な声かけをしていました。

その後、盗食しそうになったり、したときの声かけも、『どうしました?』『お腹減りましたか?』『ご飯まだでしたか?』というような声かけを心がけたことで、盗食の頻度は以前より減りました。

盗食の頻度以外にも、Sさんには大きな変化がありました。それは表情です。職員の声かけやお菓子を渡すときに、笑顔で『ありがとう』という言葉が見られるようになりました。東日本大震災のストレスで笑顔が無くなっていましたので、この変化に職員も喜びました。

今回のケースでは、認知症だから盗食してしまうという先入観だけで対応してしまい、Sさんの行動や気持ちを考えることができませんでした。なぜ盗食するのか、Sさんはなぜ食べてしまうのか、行動をよく観察し、相手の気持ちを考えることが大切なことが分かりました。

[参考記事]
「盗み食いしてしまう認知症の夫。その原因は歯だった」

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