Fさん(76才 女性)は、軽度のアルツハイマー型認知症と躁うつ病を抱えています。娘さん夫婦と暮らしていましたが、隣の家の庭でお札を燃やしたり、生ゴミを家の周りに撒き散らしたりして、近所の方々にも迷惑をかけてしまい、娘さんも対応できないとのことで、2年前に認知症グループホームに入居となりました。
入居後、同じ施設に住む他の入居者さんたちとのコミュニケーションも上手く取ることができず、Fさんもストレスが溜まっているようでした。
介護拒否と躁うつ病
Fさんは、短期の記憶を忘れてしまうことが多く、判断力も低下していました。しかし「自分は認知症ではない!この施設の中では一番しっかりしてる!」と言い、介護拒否をされることも多かったです。例えば失禁して職員にパットを手渡されても、「漏らしてない!」と言い、替えませんでした。
躁うつ病の影響で、一日中言葉を発さず、下を向き、職員のあとをついて回る抑うつ状態の時期と、とても明るく、ハイテンションで、多弁になる躁状態の時期がありました。この躁状態の時期は注意が必要。食器用洗剤を他の入居者のお茶に入れようとしたり、失禁して汚れたパットを大量に居室(2階)から外へ投げたり、他の入居者の部屋に入り、パットを盗もうとしたり…と、危険な行動もあり常に目が離せない状態でした。
躁うつ病はストレスが大きな影響を及ぼすので、施設に入ったという環境の変化が以上のような行動を起こさせたのではないかと考えました。
Fさんに対する対応
まずは認知症による介護拒否について。入居してしばらく経った頃、職員間でFさんの話になった際、職員間の認識にズレがあることに気づきました。よく話を聞いてみると、介護拒否に悩む職員は、まだFさんとの関わりが浅い職員でした。
日頃からFさんの意見を尊重しながらたくさん会話をし、なじみの関係になっている職員が、Fさんとの会話の中でパット交換を促すと、Fさんはそれに応えていました。それ以外にも、居室の掃除や入浴の際も、Fさんがまだよく知らない職員が対応すると、「部屋はキレイだから掃除しなくていいわ!」「お風呂なんて入りたくない!」などと拒否されます。
しかし、Fさんと信頼関係を築けていて、Fさんも心を開いている職員が対応するときは、拒否することなく、介助を受けている様子が見られました。介護拒否をするか、しないかは信頼性があるか、ないかの違いだったのです。
Fさんとの信頼関係を築くことが、介護拒否の対策になるのでは、と思いました。パットを盗んだり、外へ投げたりする…。これは、職員から、尿失禁していることを伝えられた後に必ず取る行動でした。「尿失禁していることを知られたくない。隠したい。パットが減っていることも職員に知られなくない。」と思う気持ちから取る行動なのだと思います。
その羞恥心を理解し、パット交換を促す際の言葉かけに気をつけました。パットを手渡した際、「濡れてないからいらない!」と言うFさんに、「濡れてますよ!」と言うのは逆効果。これでは信頼感は築けません。
「濡れていなくても、長時間同じものを当てているとお尻が痒くなっちゃうこともあるんですよ~。」などと、「濡れていない」と話すFさんの言葉を尊重した言葉かけをしてみました。すると、「そうなの?」と言い、替えて下さいました。なるべく良い印象を持てるような声掛けを意識し、信頼関係を作るように心がけたところ、介護拒否は減っていきました。認知症とはいえ、良いイメージは心に残るのです。
躁状態の時に取る危険な行動(お茶に洗剤を入れるなど)も、まだまだ注意が必要ですが、時間が経つにつれて次第に減っていきました。Fさんが入居した頃に取っていた危険な行動は、生活環境の変化、職員への不信などが原因だったのではないかと思います。環境にも慣れ、職員との関係性も良くなったことで(ストレスが無くなったことで)、躁うつ病の病状も安定してきたのだと思います。
Fさんに限らず、認知症の人に対して過不足ない介護をする為には、信頼関係を築くことが何より大切なことです。ご本人の自尊心を尊重した言葉かけや対応をすることの大切さを、Fさんと関わり、改めて実感しました。
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