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認知症による「こだわり」への対応。バッグにこだわるAさんの事例

 

 この記事では認知症の人の「こだわり」についてお話しさせていただきます。これは特徴的な症状として表れることが多いです。今回はバッグにこだわるAさんの事例を紹介します。

 Aさんは、認知症でグループホームに入居しています。最初はご家族と同居していましたが、自分たちの生活もあり、付きっきりで介護するのは大変なようで、入居されました。優しくて周りに合わせる方ですが、雰囲気の変化に敏感ですぐ不穏になりやすいところがあります。

 入居した当初は、落ち着かない様子でキョロキョロと周りを見渡すことや職員をじっと見てくることがありましたが、少しずつ他の利用者さんと話したりし施設の生活に慣れてきたら、「何もすることが無い」「暇だ」と一日数回言うようになりました。せっかくフロアーに出てきても暇だからと居室に戻ることもありました。

 フロアーにいるときは、タオルを畳んだり、食事の前にテーブルを拭いたり、新聞を折ったりするのをお願いしていましたが、Aさん以外にもそれらをやりたい利用者さんがいるので、様子を見ながらお願いしていました。それでも暇を持て余しているようなので、週に2、3回デイサービスを利用することになりました。

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親切で優しいAさん

 デイサービスはグループホームの近くにあり、毎回職員と一緒に歩いてデイサービスに通っていました。Aさんもデイサービスに行くのを楽しみにしているようでした。デイサービスへは連絡ノートや着替えが必要な方は着替えを持って行くのですが、荷物が入ったバッグは、規則により職員が持つことになっています。バッグは1つの時もありましたが、2つ持って行く日もありました。

 Aさんだけがデイサービスに通うときは、着替えは必要無いのでノートの入ったシマシマ模様の小さなバッグだけをデイサービスへ持ってきます。Aさんはよく「私が持つ」ということがありますが、杖歩行でふらつきが見られることもあるので、転倒防止のために「ありがとうございます。職員が持ちますから大丈夫ですよ」といつもお断りしていました。

 利用者1人につき、職員1人が付いてデイサービスへ行くよう指導されているため、職員が少ない日は1人でグループホームとデイサービスを2~3往復して複数の利用者さんを連れていくようになります。しかし、とても忙しい日は車椅子の利用者を押しながら、傍で杖歩行の利用者の様子を見守りながら行くこともあります。

 ある日、車椅子を押しながらバッグを2つ持っているのをみたAさんは、「私がバッグを持つ」と言いました。「職員が持つから大丈夫ですよ」と返答したら「車椅子押しながら持つのは大変だから、私が持つ」と言い、いつもと違ってその日は引き下がらないので、ノートが入ったシマシマ模様のバッグを持っていただきました。

 安全面から職員が持つ方がいいですが、Aさんは他の認知症よりもちょっとしたことでも不穏になりやすいので、せっかく慣れて安定してきたのに不穏になるのもよくないなと思い、持っていただくという判断をしました。

こだわり始まる

 それから少しした頃、職員ルームに置いてあるシマシマのバッグ(デイサービスに持って言っているバッグ)を見て、「あれ私のバッグ・・・と返して」と言ってきました。「あれは施設の物ですよ。Aさんのではありませんよ。」とバッグについている施設名の入ったタグを見せながら言うのですが、「そう。私もあんなシマシマのバッグ持っているのだけど・・・。」と悲しそうな表情で職員に訴えることが出てきました。

 Aさんは元々シマシマのバッグを持っていないのですが、「持ってきてないですよ」と言っても持ってきていないことを覚えてないので信じてもらえません。だからといって認知症の人を否定するのは良くないので、ひたすら話を聞きながら部屋に行っては一緒に探すふりをしたこともあります。

施設の対応とその後の様子

 何度説明しても「私のバッグ」とこだわるので、バッグを見えない位置に置いたり、バッグを裏返してシマシマ模様が見えないようにしたり、デイサービスへ行くときは着替えの入った大きなバッグの中へ入れたりと工夫していました。

 それでもバッグへのこだわりは消える様子はなく、デイサービスへ行かない日でもふとした瞬間にバッグを思い出すようになり、その度に説明しています。納得しない時は、居室に戻り1人でふさぎ込むこともありますが、タンスやクローゼットを開けて探しまわり、他の利用者さんにバッグが無くなったと訴えていることもよくあります。

 色々な対応を考えて実践していますが、その時々によってAさんの返答や様子が一定ではなく、これといった改善方法はまだありません。他の利用者さんが落ち着いているとAさんは穏やかに過ごされることが多いですが、他の利用者さんのお金盗られたという妄想や帰宅願望が出るとそれに影響されてしまいます。【彼らが可哀そう→→私は大丈夫なのかな→そういえば・・・】という感じで、バッグへのこだわりが出ることが多いように思います。

 他の利用者さんが不穏な時は、なるべくその人たちは部屋で落ち着いて過ごしてもらい、Aさんにはお手伝いをお願いし、考え事をする時間が無くなるように心がけています。

[参考記事]
「認知症による物盗られ妄想とはどんな症状なのか」

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