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認知症の母親を施設に入れたくないという娘の決意

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 Hさん(92才・女性)は軽度のアルツハイマー型認知症です。週3回のデイサービスと週2回のヘルパー利用をしながら、お一人で生活されていました。戦後、焼野原だった土地に自宅兼店舗を建て、ご主人様と自営業を営んでおられました。『周りから「Hさんはいつ寝てるの?」と言われるくらい、朝も夜もよく頑張って働いた』と自らよく話してくださいました。お店をされていた頃は、朝早くから住み込みの従業員の食事の世話や、お店の準備、閉店してからも片付けと家事。座って食事をする暇もなかったと懐かしそうに話しておられました。そのようなお話を聞くと、このような人たちがいたからこそ今の日本の発展があるんだな、私たちの日々の苦労なんて大したことないな~と考えさせられました。

 食べるものも我慢して建てたこの家で死ぬまで生活したいというのがHさんの最大の願いであり、以前店舗入り口だった場所に椅子を置き、そこから外を眺めるのが毎朝の日課でした。とても厳しい方で、ヘルパーが訪問すると、「自分のことは自分でするから、あなたは自分の仕事をしなさい。まず、玄関を掃いて、ポットに水を足して…」と次々と指示してくださいました。

Hさんの症状は

 別に住む娘様が心配しておられたのは排泄と食事でした。娘様は昼用のパットと夜用のパットを準備され、トイレのタンクの上とベッドの枕元に置いてくださっていました。ご自分でトイレには行かれますが、ご本人様が大量にお茶を飲まれる事や、変形性膝関節症もあったことから、トイレに間に合わないことも多く、パットから漏れることもありました。お一人で過ごされている間は失禁された際にご自分でパットを変えておられました。しかし、夜用はゴロゴロするからとあまり好まず、就寝時も昼用のパットを着用しておられました。そのため、昼用のパットを置かず、夜用のパットだけを準備していましたが、今度はパットを付けずに就寝されました。認知症の進行とともに、就寝時の便失禁も増えてきました。毎晩娘様が電話をし、夜用のパットを着用するよう声掛けをしても、結果は一緒でした。夜用パット着用の為、夜にヘルパーを利用することも提案しましたが拒否をされました。

 食事に関しては過食傾向でした。デイサービスを利用されるときの昼食はデイサービスで、夜は宅配サービスを利用していますが、認知症が進行するにつれて翌日の朝食用のパンや、お菓子まで全て召し上がるようになりました。あまり制限しすぎると異食等の問題も出てくると考え、宅配サービスのお弁当の他に大袋から出した小さなお菓子を3つだけ置くようにしていましたが、隠してあるお菓子の袋を探して召し上がられたり、となりのお弁当屋さんからお弁当を買ってきて召し上がることもありました。

 以上の症状がありますが、現在はショートステイを利用しながら、自宅で生活をされています。Hさんはご自宅で最後まで暮らしたいという希望を持っているため、娘様も母親を無理に施設に入れることはしたくないとのことです。もう少し、認知症が悪化してきたら、娘様がHさんの自宅に入って、介護するそうです。すごく理解のある娘様で、昔、母親(Hさん)から良くされてきたことが垣間見れます。

 私みたいな介護の仕事をしている立場からいうのもなんですが、ここまで思い入れのある家から施設に入れても上手くいかないのではないかなと感じます。帰宅願望や徘徊が増えたりして、心理的に不安定になる可能性が大きく、ご家族にとっても後悔する結果になるのではないでしょうか。

<Hさんからの助言>

 認知症の方と言っても、やはり人生の先輩ですから、その洞察力は優れていると感じた事がありました。まだご自宅で生活されている時に、朝から訪問するといつものように店舗入り口に座っておられ、外の景色を眺めておられました。ご挨拶をして、一緒に外の景色を見ながら気候について話をしていると、それまでの話とは何の関係もなく、突然こうおっしゃられました。

「世の中には腹の立つことがいっぱいある。仲のいい人から裏切られることもある。腹も立つし、悔しい思いもする。私だってそんな経験はたくさんしてきた。でもね、その人を許すことで自分の徳を積めるんだよ」と。

 私はその時ちょうど人間関係に悩んでいましたが、もちろん自分の悩みをHさんに相談したことも話したことはありません。仕事もいつも通りにしていたつもりでしたが、どこか私が元気のないように感じ、そのようなお話をしてくださったのだと思います。Hさんの言葉でだいぶ気持ちが楽になりました。

 介護の仕事は大変と一般的には言われていますが、この仕事をしていなかったらこのような経験はできなかったと思います。現在はHさんの支援に入ることはありませんが、時々ご自宅の前を通った際に、いつもの椅子に座って外を眺めている姿を拝見します。施設ではなく、この家で最後まで過ごしていただきたいと願っています。

[参考記事]
「食べたことをすぐに忘れる認知症高齢者に対する対応」

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