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入浴拒否の元内科医の認知症入居者の対応には白衣を使用

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 Tさん(82歳)は明るくハキハキとした印象を持つ女性です。8年前にアルツハイマー型認知症と診断され、私たちの老人ホームに入居してきました。地元で内科医をしていたTさんは少しプライドが高く、自分のテリトリーに他人の物が置いてあったり、すこしTさんに人がぶつかったりすると、すぐに顔色が変わります。皆でご飯を食べる時も隣の利用者の器が少しTさんの方に寄っていたら「あなた!ちょっと!ここは私のスペースなの!あなたの物はどけて!」と強い口調で言い放ちます。普段は明るくニコニコしているTさんですが、気分の起伏が激しくどのタイミングで怒るのかは職員も手探り状態でした。

 また、いつも忙しそうで「さあ!うちへそろそろ帰ろうかな。」と言って帽子を被って玄関へ行こうとしてしまいます。足腰がしっかりとしているTさんは歩く速度も速いため、職員が見失いそうになることもありました。外へ出てしまっては危険なのでTさんが帰ろうとしないため引き止めることは日常茶飯事でした。

 中でも職員が一番頭を悩ませたのはTさんが極度の入浴嫌いということです。Tさんに入浴を誘うと初めは「そうはいかないんだな。私は入りたくないの。」と笑顔でしたが、2回目3回目誘うと「私はあんたのこと覚えてるんだから!あんたとなんて入りません!」ときっぱり言い張ります。別の職員に交代して誘ってみても笑顔から怒りへの繰り返しで、別の日に誘ってみても同じルーティーンの繰り返しになってしまうTさん。数分後には怒りも忘れニコニコ笑顔で「さぁ。あんたも行く?行こう!帰ろう!」と楽しそうに帰ろうとするTさんですが、無理やり入浴させることは問題になっていました。しかしTさんのご家族から「入浴はなるべくして欲しい」という要望があったので、私たちが半ば強制的に入浴させてしまうことも度々ありました。

Tさんの入浴嫌いはTさんに合わせて

 リーダーと職員が話し合い、半ば強制的に入浴させている現状をなんとか出来ないのか話し合いの場を設けました。Tさんは社交的で、プライドが高い女性です。「医者」というキーワードで何かできないか話し合いを続けた結果、一か八か「職員も白衣を着て入浴に誘ってみよう」という案が出てきました。

 お風呂場までつれて来れたらTさんの気持ちも切り替わり、服を脱ぎ始めるのですが、椅子から立つまでが大変なのです。何とかお風呂場までついてきてくれるように、職員が白衣を着て「Tさん、久しぶりです。診察を待っている患者さんがいるのでこちらへどうぞ」と声をかけてみました。すると「あら、そう?行く?どこへ行ったらいいの?」と職員についていくTさん。職員は浴槽の扉を開けて「こちらです」と誘導をし、お風呂場まできたら「Tさんのために良い温泉用意したので入りましょう!」と声かけしました。浴槽まで来れたら案外すんなりと服を脱いでくれるTさん。決して入浴嫌いな訳ではない、ということも分かりました。

Tさんの職業からヒントを得て

 Tさんに対して初めは以前の職業で使用していた白衣を着て入浴を誘っていましたが、今は私服でも誘えるようになりました。もちろんTさんが今何を考えているか、またTさんが今どんな気持ちでいるのかを観察しながらタイミングを計ることも大切です。認知症やアルツハイマーの方の見ている世界と私たちが見ている世界は違うことがよくあります。私たちは業務として入浴の時間だから入浴を入れたいと思いますが、利用者にとって入浴したくないタイミングだってもちろんあります。私たちも急いでる用事があるとき、トラブルの真っ最中に入浴などできないはずです。それは利用者も同じです。Tさんは「暗くなる前に自分は帰らないといけない」ということで頭がいっぱいなのです。

 もちろん声掛けだけでは上手くいかないこともありますが、Tさんのように100%「NO」だった返事が職員の気持ち次第で数パーセント「YES」に変えることは出来ると思います。また入居者さんの性格や過去の職業、生い立ちなどを考えることも非常に大切なのだと改めて感じました。

[参考記事]
「介護のプロはどのように入浴拒否の認知症の人に対応しているか」

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