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傾聴の大切さ。自殺願望を訴える認知症利用者に対する事例

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介護老人保健施設に入所していたEさん(60代後半女性)は、以前に交通事故にあい、脊髄損傷のために首から下の部位が動かせず、ほぼ全介助の方でした。
認知症は極めて軽く、時々物忘れのある程度で、社交性も高く、笑顔の素敵な方でした。
また職員や利用者様の名前を何人か覚えていて、Eさんのほうから
「〇〇さん、~をしてほしいんだけど手が空くまで待ってるよ。」
「〇〇さん(他利用者様)が立ち上がったよ。転んだら危ないから行ってあげて。」
と職員の目が届きにくい部分まで気遣ってくれ、職員側も安心してケアをおこなっていました。
Eさんは若い頃から愛煙家ですが、介助ケアのひとつに「1日数回タバコを吸う援助をおこなう」という珍しい項目があります。

ですので、タバコを吸う時には喫煙所(デイルーム端に設置されていた)まで誘導し、援助を行ないました。
「あなたもタバコ吸うでしょ。一緒にタバコ吸いなさい。内緒にしててあげるから。」
などと冗談を好む方でした。
真に受けて一緒にタバコを吸ってしまい、注意された職員もいましたが・・・。

Eさんに対しての意思統一

そんな明るいEさんでしたが、1つ注意すべき点がありました。
交通事故に合うまでは日常何の問題もなく過ごしていたEさん。
ある日突然に身体が動かせなくなったのですから、そのショックは計り知れないほど大きかったそうです。

気持ちはふさぎ込み、鬱のような状態になり、身内にも何度も
「もう殺してくれ」
「こんな状態のままで生きていたくない」
と取り乱して訴え続けた時期があったとのことでした。
職員間では心理学のレジュメを元に、意思統一がおこなわれました。
それはキュブラーロスの「死の受容過程」です。
それは5つの過程から成り立つと説明されています。
1.否認(死という衝撃的な事実に対して、緩衝作用としてこれを認めないという意識が働く)
2.怒り(なぜ自分が・・・という怒りや恨みの感情が起こる)
3.取引(自分がよく振る舞うことと引き換えに、延命や苦痛の軽減を与えてほしいと願う)
4.抑うつ(抑うつの状態には反応抑うつと準備抑うつがあり、前者は治療などによる身体的変化に対する反応として、後者は死を迎える準備として現れるものである)
5.受容(嘆き、悲しみ、怒りなどの感情を経て、近づきつつある死をみつめるようになる)
このレジュメになぞらえて、Eさんは3~5あたりに該当しており、比較的落ち着いてきているのではないかと考えることができ、このまま様子をみて対応していこうということで統一されました。
それから3カ月が経過し、Eさんの様子にも特に大きな変化は見られていませんでした。
介護老人保健施設は基本的には利用期間は3カ月(例外もありますが)と決まっており、Eさんも次の受け入れ先が決定し、退所日まであと数日に迫っていました。

夜中のコール

私はその日、夜勤のシフトで勤務していました。
Eさんとの付き合いも3カ月ですから、お互いに気を遣う部分、遣わなくてもいい部分は見えてくるものです。
深夜の時間帯にEさんからナースコールがありました。
Eさんが深夜にコールを押すのは珍しく、何かあったのかなと思いながら訪室しました。
「〇〇さん、タバコを吸わせてほしいんだけど」
と訴えがありました。
夜中にタバコを吸うことはほとんどないEさんでしたが、その日は全体的に落ち着いており、私はEさんをデイルームまで誘導し、タバコを吸う援助を行ないました。
Eさんは喫煙者の職員には毎回タバコを勧めることが日課となっており、喫煙者の職員は毎回それを断ることが日課となっていました。
今回も同様に、Eさんは笑顔で私にタバコを一緒に吸うように勧めてくれました。
私はいつものように冗談を踏まえながら断りました。
ところがEさんは何度も一緒に吸うように勧めてきます。
「〇〇さんとは今日で会うのが最後だから、お願いだから吸って!」
私はEさんが感情的になったのを見て驚きましたが、同時に困りました。
確かにEさんが退所する日は私は休みなので、この日がEさんとの会える最後の日でした。

しかし一緒にタバコを吸っては注意されてしまうし、かといってこのままではEさんの機嫌が悪くなる一方です。
仕方なく、私は自分のタバコに火をつけて、Eさんと一緒にタバコを吸いました(後に上司に謝りました)。
Eさんはさらに言葉を続けました。
「私はね、夜中になるといつも死にたくなるの」
顔をみると、Eさんは涙があふれていました。
「でもみんな忙しそうでしょ?こんなことを言っても迷惑になるだけだから、夜中はずっと辛抱してるの」
私は黙って聴いていました。
「こんな体になってから毎日泣いていたし、家族にも周りの人にも心配ばかりかけて・・・」
「自分で自殺しようにも身体は動かないし・・・本当に死にたい」
私は黙って聴いていることしかできませんでした。
こんな時にはどんな言葉を返せばいいのか全く思いつかず、何も言葉がでてきませんでした。
ただただ頷いて聞くだけの状態でした。
その後、Eさんが落ち着いてから再度居室へ誘導した際、私に一言言いました。
「聞いてくれてありがとうね」

Eさんの退所後

私は一連の出来事を上司に報告し、その時の対応のアドバイスをもらいに行きました。
一緒にタバコを吸ったことは注意されましたが、その時の対応に関しては、傾聴の対応で良かったのではないかという返答でした。
下手に言葉を返してしまうと、逆効果の場合もあるということです。
Eさんは退所の際、上司に対して、「〇〇さん(私)にお礼言っておいて」と伝えてくれたそうです。

おわりに

人と対応する際にはマニュアルというものは存在せず、ケースバイケースでの対応がほとんどです。
人は「死」という言葉からは逃れられず、いつかは最期を迎えなければならないのですが、心理学を参考にすることで、それを理解しながらケアをおこなうと、普段とは少し違う目線で接することができるかもしれません。
傾聴するという手段も、時には必要とされることを教わった事例でした。

[参考記事]
「ショートステイの際に帰宅願望がある認知症高齢者に対する対応」

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