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認知症による帰宅願望が仏壇のお陰で収まった事例

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 ある家族から認知症の相談を受けました。それは「おばあちゃんは家族と普通に生活していたのにだんだんと物忘れが多くなり、おかしいなと思って病院に連れて行ったところ、認知症と診断を受けました。店を自営していることもあり、家族ではこれからおばあちゃんの面倒を見ることは出来ない。どうにかしてほしい」と、その家族さんは我々のグループホームに相談に来てくださいました。

 その時まだうちのグループホームは立ち上げたばかりで、滑り込みセーフでそのおばあちゃん(Sさん)は入居となりました。認知症の程度も軽く、審査もクリアし、家族の方々は入居の準備を進めていきました。主にSさんのご長男がSさんの身の回りの物の引っ越し作業を、店番の合間に少しずつ行っていました。

認知症による帰宅願望に対する対応

 入居当初Sさんは認知症による帰宅願望が強く表れていました。夕方5時くらいになると「息子が帰ってきますので」「お買い物に行かないと」と物腰柔らかなのですが、扉の前で正座をしています。その対応のためにしつこく声をかける職員には噛みつくこともありました。入居したての頃は、大抵の人は帰宅願望が出ます。気持ちが落ち着かなくて自分がどこにいるかも、何をしたらいいのかも分からなくって混乱をするからです。Sさんも職員の役割や、自分が置かれている状況は分かっていませんでした。

 この帰宅願望が、1週間続いたところで我々はご長男に相談しました。「家の中に、なにかSさんになじみのあるものはありませんか?」と。Sさんのグループホームの部屋はベッドとタンスと椅子一脚。テレビすらありませんでした。ご長男も忙しく、それどころではなかったのでしょう。

 ですがその頃にはSさんの帰宅願望はエスカレートしており、険しい表情で他入居者の部屋に侵入しようとしたり、夜間も不規則な徘徊が続いていました。食事面にも影響が出て、1日3食食べるのはまれで、体重は3キロも落ちていました。

 私たちはSさんの家から、Sさんにとってなじみのある、例えばアルバムとかカーテンとか毎日使っていた箸とか、どんな小さなものでも「家」を感じられるものがあれば、Sさんにとってグループホームが落ち着く場所になり、帰宅願望が解消するきっかけになるんじゃないかと思ったのです。

 数日してご長男さんから「仏壇をそちらに持っていくことになりました。いいでしょうか?」と連絡がありました。入居時にお仏壇を持参される方は結構多いので私たちは驚きませんでしたが、ご長男の「いいでしょうか?」のニュアンスが気にはなりました。申し訳ないような遠慮しているような・・・。でもちょっとでもSさんの帰宅願望が良くなればと私たちは仏壇を待ちました。

 3日後、ヤマト運輸からSさんの仏壇が届きました。高さが軽く160センチくらいあるであろうその仏壇は見上げるほど重厚でした。包みを開けるとピッカピカ。中はところどころ金箔が貼られており中央で空海様が座禅を組んでおられ、背後には立派な掛け軸まで。配達員さんがふうふう言って置いて行ったSさんの仏壇は、Sさんのベッドから見える窓際に置かれました。Sさんの部屋の3割は仏壇で占められてしまい、狭く暗く感じます。ご長男はこの大きさを気にされていたんでしょうね。

 Sさんは、その日から3食きちんと食べてくださるようになりました。部屋で仏壇を眺めながら。表情もどこか落ち着いて見えます。ベッドと仏壇の間は50センチあるかないかくらい。狭いのですがとても充実した様子です。時折「おじいちゃん、美味しいかい?」と箸で挟んだ切干大根やサバの塩焼きなんかを仏壇に差し出しています。差し出す先は空海様なのですが、本当に嬉しそう。

 それからも「帰りたい」「用事がある」の帰宅願望は毎日続いたのですが、職員が「おじいちゃんはどうするの?さみしがるよ」というと「そっかぁ。忘れとっとな」と、フロアに居てくださるようになりました。噛みつきも無くなり、3カ月経った今では職員と仏花を買いに外出まで出来るようになりました。

 やはり入居時にはなじみのアイテムは欠かせません。この事例を見て「帰宅願望には仏壇が効果あるのか」と思ってもダメで、認知症の人にとってなじみのある物であることが大切です。

 そして認知症患者の方が安心して入居先で過ごすには、家族さんと職員とのコミュニケーションはものすごく大切だとSさんに教わったような気がします。

[参考記事]
「認知症による帰宅願望から徘徊(行方不明)へ発展した事例」

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