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統合失調症と認知症を合併している人に対する対応の仕方

 

 統合失調症のTさん(77歳男性)は結婚歴がなく親族とも疎遠なため、最近まで精神病棟に入院されていました。入院中、骨折による寝たきり生活をきっかけに徐々に認知症も出始めた事から、ケアマネージャーは高齢者施設への入居を検討するようになりました。その後、特別養護老人ホームに入居されたTさん。初めは私たちも手探り状態でのスタートでした。

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Tさんの統合失調症と認知症の症状

 Tさんの統合失調症の症状としては、発症して以来ほとんど会話をされずコミュニケーションが図れない、自傷行為がある、感情表現が乏しいなど、統合失調症によく見られるものでした。

 また、認知症状としては記憶障害・失認・失行が主で、衣類の着脱が分からなくなる、排泄場所・方法が分からず失禁してしまったり、排便後に便を触ってしまうなどの不潔行為(弄便行為)も見られ、日常生活全般で介助が必要でした(失認・失行については「認知症の中でも一番多いアルツハイマー型認知症の症状は?」を参考に)。

 入居当初のTさんは日中ほとんどベッドに座るか寝て過ごされます。ご自分からスタッフに何か要求されたり活動しようとされる事はなく、時々部屋からフロアを覗いてまた部屋に戻ることを繰り返されます。たまに人気のない廊下を徘徊されることもあります。

 また、人の輪の中に入ることを好まれず、食事は食堂ではなく居室で召し上がります。コミュニケーションに関しては、職員の声かけに反応せず、嫌な時は手を振り払ったり、動かなくなったりという具合でした。

 それでも私たちは、ケアをさせて頂く際は必ず声かけをするようにしていましたが、過度に長く関わりすぎる事は好まれないので、適度な距離感を保ちながら、繰り返しTさんとの信頼関係を少しでも構築していけるようにと関わってきました。

問いかけの方法を変えてみる

 入居されて半年程経ったある日、いつものように入室して声をかけると、ふとTさんがこちらに視線を向けられていました。「どうかされましたか」と声をかけますが返答はありません。そこで、「はい・いいえ」で答えやすい質問に変えてみました。

 「何か飲みますか」と尋ねると初めて首を縦に振られました。何か反応してくださることが嬉しかった私は、続けて「熱いのと冷たいのどちらが良いですか」と質問してみます。すると、驚いたことに「冷たいの」と答えてくださいました。入居して初めてTさんが発した言葉でした。

 これをきっかけに私たちは簡単な問いかけをするようにしていきました。長い文章になると理解することが難しいので、単語で答えられるように工夫します。Tさんも徐々にご自分の意思を伝えてくれるようになりました。今では、「ジュース」「ちょうだい」「連れて行って」「帰る」など、ご自分の希望を話されます。

不潔行為(弄便)に対する対応

 また、一番問題となっていた不潔行為は、トイレでのTさんの行動をよくよく観察していると、便がすっきり出ずにどうしたら良いか分からずに肛門を触ってしまっているようでした。そして、その手をどうしたら良いか分からず服で拭いたり壁に擦り付けてしまう、という流れのようでした。

 そこで、私たちはまず朝食後にトイレ誘導を始め、その時、腹部マッサージを行い、腸の蠕動運動を助けました。また、水分をしっかり摂って頂き、主治医から整腸剤を処方してもらいました。トイレに座る習慣がつく事で、徐々にTさんの便秘は改善していきました。また、今では職員に慣れてくださった事もあり、拒否なく手洗いや消毒のお誘いに応じてくださるため、清潔保持も出来るようになりました。

 Tさんは統合失調症と認知症の合併症だったこともあり、始めは関わり方に戸惑いましたが、根気強く信頼関係を気付いていけるように日々関わりを工夫していくことの大切さを、Tさんから学びました。

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