アルツハイマー型認知症のUさんは70代後半の女性で、普段はデイサービスを週3回、そして時折ショートステイを利用しています。
Uさんは笑顔でいることが多いのですが、見当識障害が強く、帰宅願望がとても強い方でした。足腰も弱く、歩行時にはふらつきも見られたため、移動の際は付き添い歩行が必要でした。
しかし認知症がすすんでいるためか、「移動する際はスタッフに声をかけてほしい」という言葉を忘れてしまい、スタッフに声をかけずに一人で立ち上がり、歩こうとする場面が多々見られました。このような行動を取るため、自宅での転倒回数も多く、骨折による入院が多い方でした。
■Uさんの帰宅願望
Uさんは目を離したすきに立ち上がって帰宅しようとしてしまうので、万が一外へ出てしまったら危険だと判断し、2階でのショートステイ利用となっていました。
ある日の夕方Uさんは
「それでは帰らせてもらいましょうかね。」
「電話で家族が今日迎えにくると話していた」
「私はだまされてここにいる」
とスタッフに訴えていました。
案の定、職員が「今日はここでみんなでお泊りですよー」と声をかけてもすぐに立ち上がってエレベーターへと向かおうとします。
ショートステイ1日目はなんとか転倒もなく無事過ごせたのですが、スタッフによって対応が異なっていました。施設内での対応を統一しないと何かあってからでは遅いと考え、帰宅願望への対策をたてることになりました。
■Uさんの帰宅願望およびそれに伴う転倒の対策
私たちだって家に帰りたいと思うこともあるのですから、帰宅願望自体は悪いことではありません。問題なのは帰宅しようと立ち上がった際に転倒のリスクが高いということです。転倒のリスクを下げるために、その原因となっている帰宅願望への対策を取ることにしました。
1.常に職員が見える位置に座席を配置する
スタッフルームから見える位置にUさんの座席を配置しました。そうすることによって、Uさんがいきなり立ち上がってもすぐにスタッフが駆けつけることができるようになり、歩行のリスクを減らすことができました。
2.エレベーターのボタンを押せないように保護パネルをつける
常に見える位置に座席を配置していても、他の利用者の介助をしているときにUさんが立ち上がって歩行しようとする場面が数回みられました。
私たちの施設では階段には転倒防止用の柵を設置するなど危険防止のための対策をしているのですが、エレベーターには何の対策もありませんでした。
そこでエレベーターのボタンに、細い道具を使わないと押せないようパネルを装着しました。これによりエレベーターは職員や来客者しか使えないようになりました。
3.手芸をしてもらう
Uさんは手芸が好きな方であったため、手芸が出来るように準備をしました。そうすることで家に帰りたいという意識を手芸に持っていくことができ、Uさんがそわそわする回数が減りました。
4.傾聴する
Uさんが「帰りたい」と伝えたとき「帰れませんよ」というスタッフがいました。しかし、そう言うとUさんは「いいえ!私は帰る!」「なんで帰れないの!」「家族が迎えに来たって今電話があったのよ!」と、机をたたきながらの暴言・暴力行為がみられました。帰りたいという気持ちを否定することはUさんの不安を募り、感情を荒立てるだけです。
スタッフに、Uさんの意見を傾聴するように統一したところ、Uさんは「帰りたい」と話しているうちに「そろそろ寝ようかしらね」と話がシフトしていくようになりました。
■対応結果
以上の対応を行った結果、0ではありませんがUさんのヒヤリハット件数は格段に減り、無事何事もなくショートステイを終え帰宅されることが多くなりました。
次回利用時は周囲を巻き込んだレクリエーションを設けるなどして、職員の目がなくても他の利用者の目が届くようにするなどの工夫をしてヒヤリハットを減らしていきたいと思います。
[参考記事]
「認知症による帰宅願望に対して有効な介護者による声かけ」
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