特別養護老人ホームに入所中のTさん(80歳前半女性)は、認知症の診断を受けているものの、症状は比較的軽く社交性もあり、笑顔もよく見られる方でした。車いすを使用して日中は過ごし、自走にて移動されるなど、運動にも積極的です。
職員との信頼関係もあり、デイルームでの洗濯物やおしぼりを畳むことを手伝ってくれたり、レクリエーションにも進んで参加してくれました。
しかし特定の利用者様に対して暴言を吐く行為がみえ始めました。Tさんはデイルームで過ごす際、大きなテーブルの置かれている場所で、その隣や前面にも他の利用者様が顔を合わせやすい位置で過ごされていました。
暴言の始まり
Tさんの近くの席に座っていたYさん(80歳前半女性)は、脳梗塞による重度片麻痺、失語症、認知症もあり、発する言葉は「あーあー」など呂律が回らず、全介助の方でした。
当初、Tさんは職員に対して
「Yさんは変な人だ」
「Yさんは気持ち悪い」
などの発言がみられました。
本来であれば職員が席の配置を調整しなければいけないのですが、Tさん以外にも配席の必要な方が重なり、なかなか調整のきかない状態でした。
次第にエスカレート
TさんとYさんの距離を少し離したりしながら対応していたある日、食事を終えた後にある出来事が起きました。
Tさんが先に食事を終え、Yさんが職員介助にて食事を行なっていました。Yさんは口腔内にも麻痺があり、食事もペーストの特別食でした。介助を行なっている間は、Yさんの口から食べ物がこぼれ、エプロンが汚れた状態になっていました。
それを見ていたTさんは
「汚いわね」
「なんでちゃんと食べられないの」
と大きな声で言い始めました。
対応していた職員も気にして、Tさんをなだめていました。その時、Yさんが「あーあー」と声を出しました。
「うるさい!」
Tさんは手元にあった食器(プラスチックのコップ)を手に取り、Yさんに投げつけ、体に当たってしまいました。
「Tさん何してるの!」
職員は反射的にきつく言い返してしまいました。
「うるさい!うるさい!!」
Tさんは感情的になり、手元にあったエプロンや食器を次々と投げ始めました。幸いにも周りには複数の職員がいたので、TさんとYさんを一旦引き離して距離を置き、Tさんが落ち着くまで他の職員が対応しました。
対応を考える
このままではいつTさんが同じ行動に出るかも分からないので、職員間で統一することにしました。
1. TさんがYさんに対してなぜそのように感情を露わにするのかを詳しく聞き取る。
2. 1の理由を踏まえた上で、席の配置をあらためて検討する。
1の対応はケアマネージャーにお願いし、プライバシーを守るために自室で行なってもらいました。
Tさんに話を伺うと、TさんとYさんは若い頃から知り合い同士で、当時仲が良くなかった為に付き合いを控えたことがある経緯があることが分かりました。
入所当時、TさんはYさんがいることに驚いたそうですが、当時の嫌な思い出が残っていて、ケアマネージャーにも話さずに隠していたとのことでした。
暴力行為時は「感情のコントロールができなかった」そうです。その経緯を踏まえて、再度、席の配置を見直し、Tさんにも了承をいただいた上で、お互いに顔を合わせにくい位置に移動してもらいました。
Tさん自身も内心に溜めていた悩みを職員に話せたためか、その後は暴言、暴力行為もなくなりました。Yさんと話すところまではいきませんが、穏やかに過ごされています。
おわりに
今回の事例では、利用者様自身の過去から現在に至る生活背景からくる暴言、暴力行為の内容でしたが、職員側も利用者様の過去の生活背景までは情報収集しにくいものです。しかし、利用者様の生活歴を家族や本人から聞くことで、対応する幅が広がります。
例えば睡眠障害のある利用者様は以前家で過ごしていた頃は畳の上で寝ていました。しかし、施設ではベッドを使っていたため寝れない状態が続いていましたが、畳を敷いてその上で寝てもらいましたら、夜に起きる回数が減ったことがありました。ですので、利用者様の情報を収集することは非常に大切です。
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