●きっとある!「魔の14時」
一言で認知症と言っても幅広く、まさに十人十色の症状があります。一般的にそれらの症状は中核症状と周辺症状に区別されますが、それら症状が現れる原因(きっかけ)も様々で、突然スイッチが入ったかのように認知症状が現れたりするケースも多いです。
私が約10年間の間に3つの通所施設で経験した「認知症の方との向き合い」で、どの施設にいてもどのような症状の認知症の方にもほとんど共通して体験した事が有ります。
それはタイトルに挙げた「魔の14時」というものです。それまで穏やかにお過ごしだった方が突然スイッチが入ったように些細なことで激高されたり、急に帰宅願望が始まったり、変な話をされるようになったり…いろいろなタイミングでその症状が突如と出てくるケースが多いです。
逆に言えば24時間365日、変な話や行動を起こす方は少なく、比較的穏やかな時間もある中で不穏になられる時間もある方がほとんどだと思われます。
その不穏になられる時間は人それぞれ、いつスイッチが入るのかは原因やきっかけによって違ってくるので「何時に不穏になる」と言うのは決めつけられないのですが、私や私と携わった介護スタッフの方、さまざまな通所介護関係者の経験から、「通所介護をされている認知症の方は14時に不穏になられる方が圧倒的に多い」というものです。
これは統計を取った訳ではなく、そういったデータが出ている訳でもないのですが、たぶんこれをお読みの通所介護関係者のほとんどの方が納得される事だと思います。
私の経験だけでも数えきれないほどのケースがあるのですが、ここに一部を紹介します。
●14時のトイレ介助は至難の業
軽度認知症のAさん(女性)のケース。
軽い短期記憶障害をお持ちですが、とてもお話し好きで通常時はにこやかに世間話をされています。短期記憶障害といってもある程度の話は覚えておられるので会話も成り立ちますし同じ話を繰り返されることもあまりありません。
Aさんは車椅子を使用されていて独歩が難しく、排泄時はスタッフが半介助をさせていただいております。尿意があまりない方なので定期的にお手洗いのお声掛けをし、スタッフの指示で移動・移乗・排泄をしていただいています。
いつもはスタッフの指示を聞いてにこやかに対応して下さるのですが、なぜか14時の排泄介助だけは全く様相が変わってくるのです。お声掛けをしトイレまでは行くのですが、車椅子から全く降りてくれなくなります。
そして便器を目の前にして「私はトイレに行きたいの!トイレに連れて行って!」と大きい声で叫ばれるのです。また別の日の14時には、「いまトイレに行ったばかりだから出ない!」と叫ばれる事もあります。
これらは朝や昼の介助では絶対に出てこない言葉で、なぜか14時の介助時だけ強い拒否が出るのです。
●14時頃から突然、激高されるように…
やや重い認知症のKさん(男性)のケース。
日頃はとても穏やかな性格の方で、いつも笑顔で人と接しておられます。デイサービス内でちょっとしたトラブルがあってもニコニコしながら様子を伺っておられます。
ところが14時を過ぎた辺りから、ほんの些細なことでもすぐに激高されるようになります。
例えば他の方がテレビを観て笑われると、「うるさい!」と突然に怒り出されたり、トイレへのお声掛けをしただけで「なぜあなたに言われないといけないのだ!」と怒り出されます。そこでスタッフが時計を見ると、やはり14時頃なのです。
●デイサービスで過ごす事の特性
認知症の方には帰宅願望が出る方も多いですが、それらの方で決まって帰宅願望が強くなるのが「14時頃」です。
これはデイサービスの特性でもあるかもしれないのですが、朝お迎えに行ってとりあえず午前中は穏やかに過ごされるけど、昼食を食べて少し一服したら「そろそろ帰りたい」と思われる時間が14時頃なのかもしれません。
それらを踏まえて考えると、デイサービスでは「家庭」という慣れた環境から離れて、違う環境で穏やかに過ごしている限界が「14時頃まで」なのかもしれません。
「家庭環境」は認知症を患うずっと前から経験してきた環境であり、積み重ねた記憶があります。ところがデイサービスでの環境は認知症を患ってから利用を始めたケースが多く、「日々のデイサービスで過ごす環境」はご自宅に帰ることにより記憶がリセットされ、次に行った時には「初めての環境」と思われる方も多いです。
それにより、ある程度がんばれる時間の限界というのが14時頃ではないでしょうか。それらを考えると、半日程度のデイサービスというのが認知症の方にとっての理想なのかもしれませんが、介護するご家族にとっては少しでも長い時間利用してほしいと思われる方も多く、介護の世界ではこの理想と現実とのギャップを少しでも埋めていく工夫や努力も必要になってくるかもしれません。
[参考記事]
「認知症の周辺症状ってどんな症状なの?」
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