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認知症は軽度ですが、寝たきりで訴えの多い高齢者に対する対応

 

 Yさん(女性、80代)は、特別養護老人ホームに入所し、要介護4で寝たきりの状態です。

 パーキンソン病とリウマチも患っており、足は曲がったまま固まってしまい、座位もとれないので、車いすはリクライニング型を使用しています。体位変換も自力不可能で、時間ごとに介助し体位を変えています。

 軽度認知症とされていますが、とても頭の回転が速いです。会話は普通にでき、スタッフの顔、名前、声もほとんど認知しています。

 独身で子もおらず、入所前まで一人で暮らしていました。

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止まらない訴え

 寝たきりですが、意思ははっきりとしています。若い頃は、保険の営業をしていたそうです。人と話すのは大好きといった感じで、スタッフをみつけては呼び止め、なんらかの会話をします。

 そこで少し困ったことが、「自分のところからスタッフを離さないこと」です。まずよくある訴えが、「体が痛いから体の向きを変えてくれ」です。これはしょうがないです。介護職員である以上、聞き捨てならない訴えで、もちろん対応します。

 ですが体の向きを変える対応のために、1時間近く、付きっきりになります。その直後また、他のスタッフを呼び止め同じような事を要求します。

 体位変換は、『右を向いていたから今度は左』という単純なことではなく、左を向けたとすると、「肩はあと3センチひいて」「腰を5ミリだけ横にずらして」「足の位置がすっきりしない、しっくりくるように少し動かしてみて」など、自分が思う位置におさまるまで、何度も繰り返します。

 それから「背中が痒い、かいてちょうだい」「もう少し上」「あと3センチ右」と、それがまた続きます。また、手も動かないため、食事介助もおこないますが「そのおかずは1センチ角に切って口に持ってきて」など、細やかな要求も多いです。

「私は認知症なんだからしょうがない」

 スタッフの中には、少し厳しい態度をとり「他にも入所者さんがいて、Yさんだけに付きっきりになるわけにはいかないのですよ」と言い、要求をすべては聞かない人もいました。

 それもそうです。他にも何十人という入所者がいて、Yさんに付きっきりになり、他の入所者のケアをおろそかにするわけにもいきません。

 それでもYさんは、「しょうがないでしょ、私は認知症なんだから」と。“認知症”という言葉を、病気全般ひっくるめたように使っていました。

 「私だって自分で動ければこんなに頼まない。認知症だから、頭もわけわかんないんだから、頼むしかないのよ。聞いてくれないなら、死ねっていうことでしょ。」など、言葉巧みに返してきます。

 そして要求を聞いてくれないと「人殺しー!」などと、大きな声で叫びます。そんな日々で、ほとんどのスタッフは、Yさんの要求をほとんど聞いていました。

訴えが半減

 体位変換については、エアマットを試用した時がありましたが、「寝心地が悪い」「どっちにしろ体が痛くなる」と話し、状況は変わらなかったため取り止めました。

 変えたことは、今までほとんどの時間をベッド上で過ごしていたのを、リクライニング型の車いす上で、スタッフと同じ空間にいるようにしました。詰所、ホール、時には廊下も一緒に移動します。すると、「○○をしてくれ」という訴えが減りました。

 さらにいろいろな場所に移動することで「あんたたちも大変だね、こんなに動きまわらなきゃないんだね」という言葉もきかれました。

 Yさんに「体は痛くないですか?」と聞いても、「大丈夫」と返すことのほうが多く、定時の体位変換で褥(じょく)瘡(そう)もできませんでした。

 Yさんの多くの訴えは、「スタッフと一緒にいたい」という気持ちの表れだと思います。

Yさんの訴えは、寝たきり状態の方の心の訴え

 スタッフと多くの時間を共にすることで、落ち着いたYさん。Yさんの訴えていた内容は、「寝たきり状態で、さらに話す事ができない方の心の声」であるだろうという意見もありました。

 Yさんは話すことができるので、あれこれ指示を出すことができますが、何も訴えのできない寝たきりの利用者さんに対して、もっと表情を読みとり、満足のいく質の高い介護を提供しようと話し合いました。

 意思疎通ができないからといって、雑にしていたわけではありませんが、もっと心の声を聞こうと考えさせられました。認知症のYさんが、寝たきりである他の利用者さんの心を代弁してくれたと思うと、とても貴重な経験だった思います。

[参考記事]
「傾聴の大切さ。自殺願望を訴える認知症利用者に対する事例」

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