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認知症が原因で片付けられない人への対応

 

 認知症があるHさん(93才女性)が、認知症グループホームに入居したのは2年前のことです。認知症には、環境の変化が良くないと言われています。そのため、グループホームでは、入居の際、使い慣れた家具を持ち込んで頂くことが多いです。

 Hさんの入居の日にも、Hさんの家具が運び込まれました。驚いたのは家具や洋服など、持ち込む物の量!居室に入りきるのか心配になる程、大量でした。息子さんに話を聞くと、「母が、どれも大切だと言い張るので…」とのことでした。職員はみんな「こんなにたくさんの物に囲まれてどんな生活するんだろう。」と心配していました。

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●片付けられない理由

 Hさんの居室は、まさに荒れ放題。Hさんに「一緒に片付けましょうか?」と声をかけると、強い口調で、「このままにしておいてちょうだい!」と。

 Hさんは、認知症の中核症状である記憶障害や失行、失認が見られました。そのことと、片付けられないこととの関係がそのときは分かりませんでした。

〇失認
 人は視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚といった五感を通して外界と関わっています。

しかし、失認の障害を持っている人は五感のいずれかが脳の損傷(もしくは変性)により損なわれているため、対象を認知できません。
ですので、自分の子供を妻だと思ったり、電話の音の意味が分からなくなったり、いつも歩いていた道なのに迷ったりします。

〇失行
 失行は身体的に問題はないのに目的に合った行動ができない事です。例えば洗濯機の使い方、服を着る方法、歯の磨き方などこれまで出来ていた行動が難しくなります。

 洗った洗濯物を、他の入居者さんは、「タンスに入れておいて」と言う方が多いのですが、Hさんは、「ベッドの上に置いておいて」と言います。ある日、いつものように洗濯物を届けに行くと、ベッドの上が洋服でいっぱいになっていました。居室にいるHさんに、「もうベッドの上にお洋服置けないから、ここにしまっておきますね。」と空いているタンスを指差し伝えました。

 Hさんは、少し考えた後「タンスには入れなくていいわ!ベッドの上に積んでおいて!タンスに入れたらどこにしまったか分からなくなるの。」と。そのHさんの一言で、私は、部屋を片付けられないことは、認知症の症状が関係しているのではないか、と気づきました。Hさんから話を聞いてみると、やはり、どこに片付けたか忘れてしまう為、物がどこにあるか一目で分からないと不安になってしまう、とのことでした。

 そしてもう1つ。Hさんにとって、タンスや引き出しの中の物を出してベッドの上に広げる、という行為は、イライラを解消するためのものなのではないか、と考えました。
よく見ていると、他の入居者さんと言い合いになったり、嫌なことがあったりしたあと、居室に戻り、タンスや引き出しのものをベッドに広げていました。そのような生活を繰り返しているうちに、居室は、足の踏み場がない状態になってしまいました。

「片付け」というのは、頭を使います

 片付けの順番や片付ける場所、服を畳んだら全て収納できるかなど考えることがたくさんです。認知症の中核症状である、記憶障害や失行、失認などは、その「片付ける」という作業を妨げます。Hさんを見て、テレビで放映されるゴミ屋敷の家主はもしかしたら認知症を患っているかもしれないと思いました。

 Hさんの片付けられない理由は、認知症の症状と関係がある、ということを頭に入れ、対応策を考えました。

施設をHさんの居心地の良い場所にするために

 基本的にはHさんの考えを尊重します。ここに置いて欲しい、と言われた場合には、なるべくその場所に置きます。そうでなければ、Hさんの不安は増すばかりで、居室が居心地の良い場所ではなくなってしまうからです。

 また、透明のタンスを使って中身を見えるようにしたいと提案をしたのですが、本人が拒否されたので出来ませんでした。これをすれば相当散らかりも少なくなると思ったので、残念です。

 床に物がたくさん散らばっている状態では、転倒の危険性もあり、危険です。Hさんが居室にいない時間に、職員が、歩くスペースを確保しました。また、ホコリやゴミなどにより、居室が不衛生になってしまうため、これもHさんのいない時間に、職員が換気や、物を一度片付けて掃除機や雑巾掛けをし、また物を元の位置へ戻しておくようにしました(Hさんは、職員が掃除機をかけることも拒否します)。

 そして、イライラを解消するために、部屋を散らかしてしまう、という問題は、イライラを他のことで解消してもらうことはできないか、と考えました。Hさんは、お喋りが大好きな方。職員がHさんと二人だけの空間で、Hさんの話を聞くことがイライラの解消方法になるのでは、と思い、Hさんの居室を訪ねますが、他の人が居室に入ることを嫌がるHさんにとっては、それは逆効果でした。

 次に試してみたのは、廊下の隅に、つい立を置き、暗い表情で廊下を歩くHさんに職員が声をかけ、つい立の影に呼び、立ち話で話を聞く、という方法。これはとても効果的でした。つい立一つで、周りの視線を気にすることがなくなります。そこで、他の入居者さんとの間で起こったトラブルについて、職員にお話してくれました。

 話し終えたHさんは、明るい表情になり、居室へと戻られ、引き出しのものを広げることはせず、ゆっくりとテレビを見て、穏やかに過ごされていました。

 住み慣れた環境、居心地の良い場所で生活することは、認知症の方にとって大切なことです。施設を居心地の良い場所にするため、職員は、入居者さんの考えを尊重しながら、さりげなく手を貸し、危険や不衛生から入居者さんを守る必要があると思います。

[参考記事]
「認知症の中核症状とはどのような症状なのか」

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