Cさん(男性)は奥様が亡くなり一人での生活が続いていました。しかし最近になり怒りっぽくなったり、話した内容をすぐに忘れてしまうような事が多く見られるようになり、病院に受診するとアルツハイマー型認知症と診断されました。
洋服は毎日同じものを着ていて着替える様子もなく、食事も賞味期限が切れている物等が多くあり、1人での生活は難しいだろうと判断して老人ホームに入居したのでした。
入居への不満、介護の拒否
本人はあまり納得していない状況での入居となった為、当初から帰宅願望がとても強い方でした。
「もう帰るので手続きをさせて欲しい」「こんな所にいる理由はないんだ!」と、とても介護が出来る状況ではありません。
特に洋服を着替えるという事は非常に拒否が強く、認知症による周辺症状が顕著にみられました。スタッフが「着替えましょう」と話をしても、「さっき着替えた」「昨日着替えたから」と必ず拒否をされてしまいます。
あまり言いすぎると本人は立腹されてしまい、どうにも止められなくなってしまうので、スタッフもどう対応をしたらよいのか分からない状況が続きました。
毎日着替えの声掛けをして理解してもらう
入居して1ヶ月ぐらいすると、帰宅願望についての訴えはほとんどなくなりました。スタッフの顔や自分の居場所が理解出来るようになり、少しずつ安心している様子にはなりましたが、相変わらず着替えをする事について、拒否をする事は変わりません。
それでも毎日声を掛ける事はしていました。「服が汚れていますから着替えましょう」「そのままじゃ汚いですよ」スタッフは何とか着替えてもらおうと対応していますが、なかなか改善しない状況でした。
全く違う状況で対応してみる
Cさんに対して、通常の声掛けでは難しいと判断したスタッフは着替える為に工夫をしなければならないと判断しました。
そこで考えたのが、「検査をする」という設定で対応してみる事にしました。週に3回は血圧や体重測定をしていたので、その際に着替えてもらう事を考えてみました。
看護師がCさんに「検査をしますのでこちらに着替えてください。」と検査衣を渡すと、Cさんは特に拒否することなく着替えをしてくれたのです。そしてCさんが血圧や体重測定をしている間に新しい洋服をお部屋に用意をしておき、測定が終わった後に部屋で用意した洋服に着替えるのでした。
理由に納得できれば、認知症の方でもしっかり対応してくれる
Cさんにしてみれば、「昨日着替えている」「まだ汚れていないから着替えない」と言った、着替えない(理由)があります。
どれだけスタッフが「汚れているから」「全然着替えてないから 」と毎日声掛けした所で、Cさんには着替える理由になりません。それをしつこく言えば、立腹されるでしょうし、逆に「絶対着替えない!」という頑なな態度に繋がってしまうでしょう。
しかしCさんにとって、「検査があるから着替えてください」と言う内容は、納得できる理由なのでしょう。だからこそ洋服を脱いで、着替えに応じてくれたのです。お年寄りは医師や看護師と言う「権威」に弱いという理由もあるかもしれませんが、Cさんの場合ははっきり分かりません。
人は誰でも納得できない事を言われれば、その内容を拒否するでしょう。これは認知症の人も、認知症ではない人も同じです。「相手が何を思って拒否をしているのか」その思いをしっかり見つけながら、対応方法を考えていく事が大事だと思います。
LEAVE A REPLY