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入院による環境の変化で認知症を悪化させないための対策

 

 私は急性期病院の整形外科病棟で看護師として働いています。グループホームで転倒し、骨折をしてしまったA様の自立支援にむけた連携についてお話をします。

 A様はアルツハイマー型認知症と診断を受けている90代の女性です。グループホームは数か月前に開所したばかりでした。ある日、A様は自室で転倒をしてしまい、膝を骨折をしてしまいました。整形外科を受診し、手術の適応ではなく、「ある程度骨がつくまでは装具をつけ、膝を曲げてはいけない」と指示が出ました。しかし、A様は骨折をした事実を理解していないので「なぜ膝に装具をつけているのか」も分かっていません。

 そのため装具をつけながら、いつも通りに動いてしまうため、再度転倒をしてしまいました。2度目の転倒で今度は肘の骨折をしてしまいました。骨のずれがあり、本来であれば手術適応でしたが、外来の医師からは「認知症があるから手術は難しいのではないか。足の骨折ももう覚えていないもんね」と言われ、入院・手術の決断をその場では行わず、一旦グループホームへ戻りました。

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入院による認知症の悪化やADL(日常生活動作)の低下の予防

 A様には身寄りがいないこと、自分のことはできる限り自分で行いたい、人に迷惑をかけたくないという性格ですので、「手術をして以前の生活が継続できる可能性があるのなら、手術を行ったほうがよいのではないか」とA様、後見人、グループホームの職員で話し合い、手術を行う決断をしました。

 A様は環境の変化にとても敏感な方で、グループホームへ入所された当初は少し混乱することがありました。まだ、グループホームへ入所されてから日が浅いこと、入院することで再度の環境の変化で混乱する可能性がありました。

 A様の認知症の悪化・ADL(日常生活動作)の低下を防ぐためにも、グループホームでの生活を継続するためにも、最短の入院期間の方がA様にとって良いことだと考え、グループホームの職員から主治医へ最短の入院期間でお願いしたいと依頼がありました。

 そして、毎日グループホームの利用者さんが病院に面会に来られ、A様を励ましていました。A様は痛いながらも面会にくるお友達に笑顔をみせたり、グループホームの職員と和やかに話されたり、認知症の悪化・ADL(日常生活動作)の低下をせずに退院を迎えることができました。

 退院直前に看護師である私はグループホームの職員に包帯の巻き方、三角巾の使い方、どの程度腕を動かしてもよいかなどの指導をし、A様が退院後グループホームで困ることがないよう連携をとりました。

 A様は現在もグループホームでできることを手伝って頂きながら、お元気に生活をされています。時々グループホームの職員と一緒に、病院に来てくれます。しかし、肘の手術をしたこと、膝を骨折したことなどは覚えていません。私たち病院職員のことを、『以前私が困ったときに、お手伝いをしてくれたいい人』とグループホームの職員に話しているようです。

まとめ

 認知症があっても、どのような治療を受けたいのかを決める必要があります。一人で決めることが難しい時には寄り添ってくれるご家族や施設の職員などと一緒に意思決定を行うことになりますが、入院の決定の場合には特に環境の変化に気を付けなければいけません。認知症の方は引越しをする、施設に入るなどの環境の変化が苦手で、ここを疎かにすると認知症が進行しかねません。それを防ぐための一例として今回の事例を紹介しました。

まとめますと
〇グループホームの方々が毎日見舞いに来てくれて、環境の変化を最小限に抑えたこと
〇グループホームの職員が包帯の巻き方などの指導を受け、入院期間を最短にできたこと

 施設に入居するときの環境の変化を少なくするために、普段家で使っていた家具やベッドなどを持ち込むのも有効な手段になります。認知症が進行してからでは遅いので、その前に事前に対策を行いましょう。

[参考記事]
「生活環境の変化により認知症の症状が悪化した事例を紹介」

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