認知症介護を行う場合は、施設でも在宅でもバリアフリーのための住宅改修を行うことが必要なケースも多いです。しかし、個人の心身状況に合わせて適切な住宅改修を行うためには、様々な職種の情報を集めていく必要があります。
今回は、適切な住宅改修で認知症の周辺症状が改善した事例について紹介します(参考記事「認知症の周辺症状ってどんな症状なの?」)。
在宅で認知機能が悪化し介護量増加
アルツハイマー型認知症のAさんは、認知症と診断されてからも長男夫婦と一緒に在宅生活を送っていました。しかし、徐々に記憶障害や行動遂行障害などが悪化し、活動性が低下していました。その結果、移動やトイレ、入浴などで介助が必要となってきていました。
介助が必要となった頃から、介助者である長男夫婦に暴言を吐いたり、介護拒否したり、放尿行為なども見られるようになりました。
Aさんは以前は学校で校長先生を行っており、プライドの高い方だったそうで、過剰な介助の結果として周辺症状の悪化が起こっている可能性があります。
なぜ、過剰な介護が必要になってしまうのかの原因の一つに、自分の力で動くことが出来ない家の構造になっているということが挙げられます。数年前に家をリフォームした時に、段差解消や手すりの設置などバリアフリーにしてあるものの、Aさんの状態に合わせて住宅改修は行ってはいませんでした。
デイケアスタッフの提案で住宅改修を実施
Aさんの活動性が低下し、介護量が増加しているという理由で、昔から通院していた整形外科のデイケアに通っていました。デイケアに通い始めで数ヶ月たったある日、担当者会議でAさんの現状や改善策について、Aさんの家族、デイケアのスタッフを含めて話し合いを行いました。
家族からは、今後、周辺症状が悪化するようだと在宅での介護は困難であるという言葉が聞かれました。担当者会議を開催したケアマネージャーは、在宅生活を継続するために、何か良い方法はないかデイケアのスタッフに意見を聞きました。
するとデイケアのスタッフから興味深い情報提供がありました。デイケアのスタッフによると、Aさんは
〇トイレは「縦手すり」をうまく利用すると、片手で立位保持が可能で、ズボンやパットの上げ下げも自立されていること
〇デイケアで行っている伝い歩きは安定している
などといった情報を伝えてくれました。
そして、在宅での環境を調査した結果として、住宅改修の必要性に関して提案をしてくれました。家族はバリアフリー住宅で、段差もなく手すりを設置しているため、住宅改修は必要ないと思っていました。
しかし、それは、一般的な改修のみで、Aさんの体の状態や動作の特徴を踏まえた上での改修ではなかったのです。Aさんの自宅ではAさんにあった環境にはなっておらず、結果として家族が介護しなければ生活が難しい状況になってしまっていたのです。
それから、Aさんに関わる家族や専門職の情報を集結させ、Aさんに必要な住宅改修を実施することとなりました。
活動性が向上して周辺症状が激減
トイレに「縦手すり」や動線に伝い歩き用の手すりを設置したりなどの住宅の改修を行った結果、Aさんは自宅でもデイケアと同じように自分の力でトイレを行ったり、自分でベッド周辺を移動したりといった活動ができるようになりました。
家族の介助が減ってきただけでなく、Aさんの暴言や介護拒否などといった周辺症状も減ってきました。
Aさんはプライドの高い性格から、家族からの介助とデイケアでの介助の違いにも不満感を募らせて、周辺症状の悪化につながったのかもしれません。
家族に自分が行えることまで過剰に介助されていてストレスを感じていた可能性もあります。この経験を通して、適切な住宅改修の必要性を知ることができました。
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