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認知症による物盗られ妄想が引越し後に無くなった事例

 

 ヨリコさん(仮名84歳)は穏やかな話し方をされるおばあちゃんです。糖尿病を患われ、認知症の症状が出てきているということで自立型のケアハウスから住宅型老人ホームに移って来られました。

 認知症となっていましたが、少し短期記憶が抜けているかな、という程度で、日常生活には大きく影響なく、スタッフともよく話す社交性のある方です。少しぽっちゃりされていますが、歩行は歩行器でうまく歩かれています。

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ヨリコさんの日常

 日常のヨリコさんは住宅型老人ホームから週3回デイサービスに通い、デイサービスのない時はよく編み物をされていました。昔、洋裁もされて、部屋には段ボール箱に入ったままのミシンも置いてあります。ほとんど開けない衣装ケースには、ご本人手作りの洋服も入っています。

 また訪問サービスも利用していますが、生活援助がほとんどで、掃除洗濯中心のサービスです。時々買物代行を頼まれて毛糸などを買ってきていました。

体が重くなり、不活発に

 ヨリコさんに限らず、お年寄りの楽しみの一つは食べることです。月に一度来られる妹さんからの差し入れのお菓子を召し上がったり、食事の時間は、目がなくなるような笑顔を見せてくれていました。

 そのうち、徐々に体重が増えていき、60キロを超えるようになっていきました。身長が150センチほどのヨリコさん、糖尿病もあるため、管理栄養士のも相談し、食事では主食の量を減らしていただいたりしました。

 しかし、ご家族からの差し入れでお菓子を食べていることが多く、なかなか減量ができず、それと同時に日常の活動も不活発になっていき、とうとう一年後には転倒骨折。ついに車椅子での移動介助が必要になっていきました。

少しずつ認知症症状が

 車椅子では、ご自分で自走もされていますが、なかなかリハビリには積極的にはなられません。そのうち、編み物も殆どされなくなってきて、食べることだけが趣味になっていかれました。

 そして生活援助の掃除に入ると、他の利用者の悪口を言うようになられ、話の相槌を打つのに苦労するようになりました。もともと優しい口調で他人の悪口はほとんど言われなかった方で、その内容も妄想めいたものが中心になっていきました。

 ある日、生活援助に入ると、「この前買っておいた毛糸と編み棒がなくなった」と言われます。買物代行で編み棒と毛糸を買った記録もないし、どこを探しても出てきません。その後も洋服、下着、持っていた宝石等々、いろんな物がなくなったという訴えが続くようになっていきました。少しずつ認知症の周辺症状である物盗られ妄想が酷くなっていきました。

物盗られ妄想から、決めつけの犯人捜し

 そんなある日、以前からヨリコさんに気に入られて、入退院の時もお世話していたヘルパーのSさんが生活援助で掃除に入った時、衣類の入れ替えをしたいからと頼まれ、衣装ケースの中にある夏物衣料を出し、冬物衣料を中に入れて入れ替えをしたときのことです。

 サービス中は一緒に部屋にいて、できることはヨリコさんにしていただき、Sさんは重い衣装ケースを移したりしました。終わると「ありがとう、助かったわ。これでしばらくは衣類のこと気にせずに暮らせるわ。ほんとにありがとう。」ととてもうれしそうに話してくださいました。

 しかし、その夜、夜勤職員に替わってから「お金が5万無くなった」と言い出されます。「盗った奴は分かっている、あの女や」と続けられました。夜勤職員はこれが物盗られ妄想だと分かっていたので、その場では違う話をしたりして、注意をそらし、その夜は良眠していただくように対応していました。

 次の日、認知症の方だから忘れてくれていればと思っていたのですが、「私、お金盗られたのよ。盗った奴は分かってるんだけど・・」と職員に話されました。ちょっと面倒になってきたかなと思い、職員はそのことには一切触れないように気を付けて接するようにしていました。

 それから2週間ほど過ぎて、Sさんがまたヨリコさんの生活援助に入った時、「あんた、この前私の部屋の掃除をして、金をとったやろ」と興奮気味に怒鳴られました。Sさんは、物腰柔らかく介護経験も永くベテランで、他の職員からも信頼される職員です。ここでは、個人のお部屋に大きなお金を置くことはなく、ご家族が来られた時も大きなお金は事務所に預けるようになっています。ご家族に聞いても5万円持っているはずはないけどということでした。

いろんな手を考えた結果、最後の手段は

 それから、Sさんはヨリコさんの生活援助からは完全に外れ、ヨリコさんはいろんな種類の薬を試すことになりました。それ以外の物盗られ妄想もいろいろ出ており、「ここは泥棒がいっぱいおる。ほんとに安心できん。」と言われることが多くなってきました。Sさんはそれ以来、仕事中でも以前のような元気はなく、仕事自体が辛くなっていっていました。

 そこで、ついに施設長は思い切った策に出ました。同じ系列で住宅型老人ホームがもう一つできており、そこに引っ越していただくというのです。以前から病院で今の物盗られ妄想を消すには、大胆な環境の変化が必要かもしれませんと医師に言われていたからです。その老人ホームは妹さんの家からも今より近くなり、ご家族からも賛成されていました。

 話はスムーズに進み、今ではその老人ホームで穏やかに暮らしておられるということです。引越しの時、そちらの職員さんに、「あまり親しくなりすぎないよう、距離を置いて介護をお願いします。」といった言葉を、守っていただけているようです。

 認知症の方にとって引越しなどの環境の変化は良くないと言われていますが、場合によっては有効なんだと勉強をさせていただいた事例でした。

[参考記事]
「物盗られ妄想の強い認知症高齢者への上手な対応方法」

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