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認知症になってからの恋愛。いくつになっても男と女

 

 恋愛は活力の源。いくつになっても異性の目を意識して身だしなみを整えていることはその人の見た目だけではなく、肉体的、精神的にも若々しさを保つ効果があるほか、最近の研究では認知症予防にも有効だとも言われています。こんな若さの秘訣の「恋愛感情」ですが認知症が絡んでくると少し厄介な問題を起こすこともあるのです。

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いくつになっても男と女

 いくつになっても精神的に「現役」というか恋心を失っていないお年寄りの方は結構いらっしゃいます。「あの二人話が合うみたいですね」とお茶のみ友達から、いつの間かまるで恋愛している恋人同士のようなラブラブな雰囲気になってしまう方もいて、こちらの方が恥ずかしくなるときもあります。

 まあそれでも、お二人ともかなりの高齢なので「間違い」が起こることもなく、スタッフ一同微笑ましく見守らせていただくことが多いです。

1人の男性を巡る恋愛トラブル?

 ほとんどの高齢者施設でも同じとは思いますが、男女比率は約3対7で圧倒的に女性の方が多いです。男性は男同士、部屋の隅で将棋や囲碁を興じていたり、自室でテレビを見ていることが多いので、施設の「社交の場」である談話室に出て来られるのは少数派です。そんな社交派の男性は概して女性に優しく親切なので、はっきりいってかなりもモテるのです。Fさん(83歳)もそんな方でした。

 Fさんは商社に勤め、海外での生活経験もあるお洒落でダンディなジェントルマンで、女性への接し方、レディーファーストぶりは、まるで映画の1シーンの様。そんなFさんは当然に女性陣から人気の的でした。

 そんなFさんとよく話をしていたのがSさん(86歳)でした。Sさんは認知症があるもの毎日髪をきちんと整え、女性としての身だしなみを意識しておられるような方でした。SさんはFさんのことが気に入っているようで、気が付けばいつもFさんのそばに坐って、おやつの時間などFさんのお世話をするようになりました。その様子はまるで仲の良いご夫婦のようで、私たちもしばらくは見守ることになりました。

 ある日談話室からSさんの大きな声が聞こえました。テーブルをはさんでSさんと二人の女性(共に認知症)が激しく口喧嘩をしていて、その脇には困り切った様子のFさんがスタッフに助けを乞うような視線を投げかけています。どうやらSさんのヤキモチの様です。

 スタッフ総出で3人を分けて、お話を聞くことにしました。喧嘩の原因は予想通りFさんが他の女性と話をしていることに対してSさんが嫉妬したことでした。しかしお話を聞くうちにさらに大きな問題がみつかりました。なんとSさんはFさんのことを夫だと思っていたのです。

 認知症は、脳が委縮する病気で、委縮する場所に応じて様々な症状が出ます。記憶障害もその一つです。認知症の記憶障害の特徴は「思い出せない」のではなく、記憶の一部が無くなるのです。これはあくまで推測ですが、Sさんの場合ご主人の顔や名前の記憶は無くなってしまっても、一緒に過ごした楽しい思い出は残っていたのでしょう。いつも隣に優しく守ってくれる男性がいてくれた・・

夫=隣で笑っている男性=Fさん

 Sさんの頭の中ではいつの間にかそんな公式が出来上がったのかもしれません。記憶は消えても幸せだった時間は心が覚えている・・Sさんは今は名前も思い出せないロミオをずっと思い続けていたのです。とても悲しいラブロマンスですね。

スタッフは鬼になった

 私たちの施設では可能な限り入居者さんの好きなようにしていただくことを心がけています。ただ、今回のことは他の方に迷惑がかかる可能性が非常に高く、悠長に構えているわけにはいけません。そしてなによりスタッフの意見が一致したのは、Sさんのロミオは亡くなったご主人であって、決してFさんではないということです。かくして二人を引き離す「天の川」作戦が開始されたのです。

 まずはスタッフが総力を挙げてSさんに話しかけ、あらゆるレクリエーションにお誘いしました。また、Fさんとおやつの時間をずらして顔を合わせる機会を減らすようにしました。二人が一緒にいる時間を極力減らして、SさんのFさんに対する依存から脱却させることを狙ったのです。

 スタッフの狙い通り、SさんのFさんに対する思い入れは無くなったようです(認知症の影響で徐々に忘れていったのかもしれません)。うちの施設では今年も彦星と織姫が会うことはありませんでした。でも、それが正しい選択だったのかは、正直私にはわかりません。恋愛などの恋心は認知症にも良い影響を及ぼす可能性があるからです。

まとめ

 介護施設では今回の恋愛騒動など日々いろんなことが起きています。一つ一つがその方の人生に関わる問題でしかも正解を導き出すマニュアルはありません。解決への道のりはいつも手探りで、私たちの選択が最善の正解だとは思ってません。ただ待ったなしの介護の現場では自分たちなりに真剣に考え、精一杯の対応をするしかないのです。介護とはその人の人生に向き合うこと。その意味が考えながらこれからの仕事をしたいと思います。

[参考記事]
「認知症高齢者でも恋はする。恋愛感情が症状にプラスに働いた例」

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