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認知症の周辺症状により「もしもし」と連呼するMさんの事例

 

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「もしもし」と連呼するMさん

 Mさん(89歳 女性 アルツハイマー型認知症)はサービス付き高齢者住宅に入居されました。入居時はまだ、アルツハイマー型認知症は発症しておらず、感じのいいおばあちゃんといった印象でした。シルバーカーを使用し、歩行・排泄・食事は自立されており、入浴時に髪と背部を洗うのみという一部介助の状態でした。

 あるとき誤嚥性肺炎のため入院され、退院してくると認知症状が急速に進行し、今までできていた身の回りのことができにくくなって帰ってきました。

・Mさんに出た周辺症状(BPSD)

 認知症状の進行により、まず介助が必要となったことは、排泄です。入院による体力の低下と下肢筋力の低下により車椅子を使用されていました。

 尿意は感じているようで、トイレに行きたくなると「もしもし、トイレお願いします」と訴えられます。都度介護士が対応しトイレ誘導を行っていたのですが、尿意の感覚が鈍ってきているようで、トイレにご案内しても排尿が確認できないことがしばしば起こってくるようになりました。

 そうなると職員たちは口には出しませんが「さっき行ったばかりでしょ」と排尿パターンを職員側で決めてしまうようになりました(その結果、トイレ誘導をしないという対応になってしまいます)。

 職員不足の介護施設の中で、10分おきにトイレにご案内しても排尿がないと「無駄な時間」と判断してしまう傾向があります。このような対応を続けていると、Mさんはトイレに行きたい時以外でも「もしもし」と連呼するようになりました。「もしもし」の声出しは次第に悪化し、覚醒時のほとんどの時間が「もしもし」と声を出されている時間になってしまいました。ほかの入居者からは「うるさい」などと怒鳴られることも。

 このようにMさんは不穏な状態になり職員もどうしたらよいか困っている状態でした。認知症を患っている方にとって一番つらいのは「分からない」ことだと思います。何が分からないか分からないので、「もしもし」と連呼していると思うのです。

 今回のケースではMさんが「分からなくて困っている」のに「職員は何もしない」という行動をとることによって周辺症状が出てしまった典型的なケースです。

[参考記事]
「認知症の周辺症状ってどんな症状なの?」

・Mさんに対して行った行動と変化

 Mさんに対して周辺症状が酷くなった後に取った行動と変化を記載させていただきます。まず、「もしもし」との訴えがあった際はじっくりと時間をとって話をしました。話を聞いてくれる人がいるという安心感を与えるためと、職員とのなじみの関係を構築するためです。

 人の顔を記憶できないようですが、「あの若いお兄ちゃんはどこ」と私のことを認識してくださる日が出てきました。「もしもし」という訴えは続いていますが、「もしもし」との訴え時に話を伺うと必死に何かを訴えようとされる仕草が見られました。言っている内容は理論的ではないですが、私はうなずく仕草を繰り返しました。

 次に、歩行の練習をしました。これは、Mさんが抱えている不安は何だろうと考えた結果として出てきた行動です。

 Mさんを不安にさせているものは何か。その中の一つは車椅子に乗っていても、車椅子の使い方が分からないことです。それゆえ行動が制限されてしまっているので、自分が何かをしようとしたときに、自由に動けない不安があると想像しました。

 今まで「もしもし」には具体的な内容があまり見受けられなかったのですが、「歩きたい」との訴えがある時があったのです。その時には、トイレまで3~5m程手引き、歩行をするように誘導しました。それ以降、職員はMさんがトイレに行きたいと言った際には数mの歩行介助を行うようになりました。

 その後、こうした活動をしていくと、Mさんは次第に落ち着いてきました。根本的な不安を解消できたとは思いませんが、少なくても、Mさんにとって「やりたいことができたこと」で安心感を得たようです。

 「認知症の人は何もできない」のではなく「何かをやりたいと思っている」と介護士、家族が考えることが重要だと考えます。私は認知症介護をする際に認知症の方を自分の身に置き換えて考えるようにしています。そうすると、周辺症状は自分の行動のせいで出ていると実感させられます。自分にされたら嫌なことは人にはしないということです。日本人であれば当たり前の行動が認知症を患っている人に対してだと軽視する傾向が強く出ていることに気づきました。

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