Dさんは、90代の女性でアルツハイマー型認知症と診断されています。アルツハイマーの症状は進行しており、毎日のようにテレビショッピングなどで商品を注文していました。
Dさんは在宅では一人暮らしをしておりますが、娘夫婦が近所に住んでいます。しかし、いくら買い物のし過ぎを注意しても一向に収まりませんでした。娘夫婦は自分たちの生活で精いっぱいで、母の面倒を見ることができないということで、特別養護老人ホームに入所されました。
Dさんは特別養護老人ホームに入所してからも、最初はテレビショッピングなどの番組を見るたびに、「あの商品が欲しいから注文させて!」と、職員に言っておられました。Dさんのお金は毎月娘夫婦から決まった額を預かり、欲しいものがあれば買ってやってください、と言われています。
私たちの特養は毎月1回、利用者さんが好きなお店へ買い物へ行くことができる日があります。Dさんはそこで大量に物を買いこむため、居室はいつも大量の物で溢れかえっていましたが、職員が片付けようとすると「大切なものだから勝手に触らないで!」とものすごい形相で怒鳴ります。
ある日、Dさんがいつものように買い物へ出かけたのを見計らい、職員がDさんの居室へ入ってみたところ、消費期限が切れている食品やカビが生えているお菓子などもありました。
買い物に対する対策
このままでは衛生面で問題が出てくると思い、Dさんの買い物に対する話し合いが行われました。話し合いの結果、まずDさんの買い物に同行する際、買うものリストを作って持っていくという案が出ました。
早速、買い物の日の前日にDさんの居室で買うものリストの作成を行ないました。Dさんは居室の中で「有るものと無いもの」を確認しながら、職員と一緒にリストの作成を進めていきました。「これと、これと、これはいらんね。」などと自分で選択しながらリストの作成を進めていくといつもの買い物量の半分以下になりました。
買い物当日、Dさんはリストを持って買い物に出かけました。かごを持ってお店に入ると、リスト通りに買い物を進めていくDさんでしたが、途中から「これもいるね。」とリストに入っていないものまで入れ始めました。
職員が制止しても、Dさんは「いいじゃない!」と大声を出してかごに入れていき、結局この日はリストにないものまで大量に買ってしまいました。しかも、その中のほとんどの物はすでに居室にある物でした。
施設に戻り、再び会議を開きました。一人の職員は「Dさんは、商品が居室にすでにあるという記憶が欠けているのではないか」と言い、もう一人の職員は「自閉症の子供を育てている近所の友達は写真を使ってやるべきことを教えている」との意見を言ってくれました。
そこで、Dさんと買い物リストを作る際、居室にある商品の写真を撮影し、リストと一緒に持っていくという案が出ました。これであれば記憶の弱さもカバーできると考えたのです。早速次の買い物リストを作る際、Dさんの許可をもらい、買い物リストの作成と同時に居室にある商品の写真を撮りました。
買い物日当日、写真とリストを持って買い物に行きました。するとDさんは、最初は買い物リストにないものを買おうとしていましたが、写真を見ると、「ああ、これはまだあるわね。」と言って商品を棚に戻していました。この日の買い物では、買い物リストにあるものだけを買うことができました。
この取り組みを通して、Dさんとは買い物リストを作る過程で職員との関係が深まり、居室を少しずつ片付けてくれるようになりました。そして今でも、買い物日を楽しみにしながら生活をされています。
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