老老介護という言葉は、最近よく耳にすることが多いです。
高齢化社会で、核家族が多い世の中なので、老老介護になってしまうのは当然かもしれません。
今回はある夫婦の例を紹介します。
全介助の介護生活
Kさん(夫、76歳)とYさん(妻、80歳)は長年連れ添った夫婦です。Kさんは、5年以上も妻Yさんの介護をしています。Yさんは5年前に脳梗塞により左半身麻痺で寝たきりの状態になり、さらに脳血管性認知症を発症しています。以前は立ち上がることが出来たそうですが、その後の足(大腿部)の骨折をきっかけに、完全に寝たきりとなってしまいました。食事も自分では食べられず、日常の生活に全介助を必要とする状態です。
5年以上の寝たきりの生活を、夫のKさんがほとんどみていましたが、入浴は介護サービスの訪問入浴を利用していました。また、Kさんが自分の病院受診などで留守にするときなどは、ホームヘルパーを利用していました(オムツ交換のみか、オムツ交換+食事介助など)。
人格変貌
寝たきりとなって、最初は簡単な会話もできたそうですが、徐々に意思疎通ができなくなり、5年たったころ、暴言がひどくなりました。しかも、家の外に聞こえるほど大きな声で叫びます。「死んでしまえ!」「くそったれ!」「ばかもの!」などの暴言や「助けてー!」などの悲鳴。
病気のせいとは分かっていても、夫のKさんは、そのことに本気で怒ってしまうこともありました。「うるさい!」と同じくらい大きな声で返すこともよくありました。
夫のKさんは、真面目な性格です。妻の食事も、栄養に気をつかいながら、毎日手作りしていました。「まあいいか」を許せない性格で、出した食事は残さず食べさせなければと思い込んでいたり、服にご飯がこぼれたりして少し汚れただけでも、必ずすぐに着替えをさせていました。
そんな真面目なKさんですから、妻の暴言も聞き流さずに、まともに対応していたのでしょう。何より、一生懸命に介護をしているのに、妻から出てくる言葉はほとんどが暴言ですから、本当に心が疲れたと思います。
そして妻のYさんは、認知症を発症する前はとても穏やかな性格で、優しい方だったそうです。そんな妻が暴言を吐くことを、受け入れることも難しいと思います。
疲れきった夫
ある日、Kさんが自分の病院受診で留守にするため、ホームヘルパーを依頼しました。1時間で、オムツ交換と、食事介助をする内容です。食事は、Kさんが調理して用意しているはずでした。
ヘルパーが訪問すると、Kさんが家におり、うずくまっていました。食事も用意されておらず、Kさんはうずくまったまま、ひものような物を手に持っていました。自殺をしたくて、ひもを持っていたわけです。「死んでしまいたい」と話し、その表情は本気で自殺をしてしまうのではないかと思うほど沈んでいました。
また、以前よりすごく痩せたようでした。このままではKさんが危険と判断し、親戚の方に連絡をとり、病院へ連れていってもらいました。Kさんは精神科に入院となりました。
まとめ
介護者が不在となり、妻のYさんは施設に入所されました。夫のKさんはあの時、精神的にも肉体的にも疲れ果て、食事もきちんと摂っていなかったそうです。それでも妻の食事だけは用意しなければならないと思い、頑張っていました。
ヘルパーを依頼した日は、昼食を用意しようと思っても体が動かず、そして暴言が聞こえてきて…ということで、何もかも嫌になってしまった瞬間だったと話します。ただでさえ、高齢者が介護をすることは、まず肉体的に相当な負担になります。私たち周囲も、もっと早く気が付いて、ショートステイの利用などを強くすすめればよかったなと反省します。
妻のYさんは入所して、薬をうまく利用できているそうで、多少の暴言はあるものの、比較的穏やかに過ごせているそうです。Kさんは今、回復して、「また妻を家へつれて帰りたい」との希望があるそうです。どうなるかは分かりませんが、まず介護者が健全でなければ、介護は成り立ちません。老々介護に限らず、介護者と要介護者が、共倒れにならないようにしましょう。
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