デイサービスでは、朝と夕方の送迎時にヘルパーが送迎車に同乗して利用者の介助をします。ほとんどの利用者は毎朝笑顔で迎えてくれるのですが、中にはデイサービスに行くのが嫌で、どうしても送迎車に乗りたがらない利用者がいます。
送迎は時間が決まっているので、あまりひとりに時間をかけてしまうと後のお迎えの人を待たせてしまうため、できるだけスムーズに乗車を誘導しなくてはなりません。
この記事では、お迎えを嫌がって送迎車に乗ろうとしない認知症の人への上手な対応を紹介したいと思います。
行きたくない!断固として車に乗らない利用者
認知症のAさん(87才女性)は、息子さん夫婦と同居しているのですが、ここ数年、認知症の症状が進み自宅で過ごすのがだんだん難しくなってきました。そこで、まず手始めに週に3回デイサービスを利用することに。
人見知りのAさんは、利用し始めの頃から警戒心が強く、ヘルパーに対してもなかなか心を開いてくれませんでした。
そのうち、デイサービスに行くのを嫌がるようになり、朝ヘルパーが家まで迎えに行くと車に乗るのを渋るようになってしまいました。
それでも、ヘルパーが根気強く説得したり息子さんに声掛けをしてもらったりして、何とか毎回送迎車に乗ってもらっていたのですが、日に日に強い拒否を示すようになり、お迎えがさらに難航するように…。
車に乗りたくなる工夫とは?
もともとデイサービスの利用は、Aさん自身のためだけでなく、息子さん夫婦の負担を減らすためという狙いもありました。
Aさんがデイサービスに行かず家に一日中いるとなると、息子さん夫婦に大きな負担となってしまいます。それでは双方にとって良くないと判断した私たちは、何とかAさんに気持ちよく送迎車に乗ってもらう方法を考えました。
実はAさんには近所に仲の良い女友達がおり、その女性も当方のデイサービス利用者でした。そこで、息子さんと相談の上、Aさんのサービス利用日をその女性と同じ曜日に変更し、お迎えの際はその女性を先に迎えに行ってからAさんの家へ向かうことに。
車の中に仲の良い友達が乗っていれば、Aさんも今までのように車に乗るのを嫌がらなくなるのでは…?と考えたのです。
その予想はうまく的中しました。
Aさんは車の中にいる友達に気付くと、すぐに笑顔になって「あら、おはよう!早いのねぇ」と女性と言葉を交わし、スムーズに送迎車に乗り込むようになったのです。
出かけるのが嫌だと思う気持ち以上に、仲良しの友達に会えた喜びの方がAさんにとっては大きかったわけですね。
デイサービスで楽しく過ごしてもらうためにしたこと
さらに、息子さん夫婦にAさんの趣味や好きなことを聞いたところ、長年書道を習っていたことが判明。
さっそくレクリエーションの時間に習字セットをAさんの席に用意したところ、Aさんはとても喜んで習字をするように。それ以来、Aさんは毎回のように習字を楽しむようになり、その習字を通して仲間も増え、ヘルパーにも徐々に心を開いてくれるようになりました。
■最後に
あれだけ拒否が強かったAさんが、今ではすっかりデイサービスに自分の居場所を見つけ、毎回楽しそうに過ごしています。その姿を見ていると、人が自分らしく過ごすためには、好きなことや気の合う仲間の存在が本当に大切なのだということをしみじみ感じます。
元気だったころと同じように、好きなことをして、気の合う仲間と楽しく過ごすことができれば、誰でもきっと頑なに心を閉ざすようなこともなく、Aさんのようにステキな笑顔を見せてくれるのではないかと思います。
今回はたまたま上手くいったケースではありますが、孤独な高齢者との関わり合いに、ひとつのヒントをもらえたような事例でした。
LEAVE A REPLY