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視覚に訴えることで認知症による同じ事を繰り返す行動が減少

 

 認知症を患っておられる95歳のIさん(女性)は重度認知症デイケアに通所されています。ご家族からの支援が得られる事でこれまで長きに渡って生活されてきたご自宅で過ごしつつ、日中はリハビリ・入浴サービスを利用することを目的にデイケアに通所されるといった日々を送っておられます。

 数年前までは独歩での生活が可能だったのですが、転倒による大腿骨骨折をきっかけに移動手段は車いすに変わりました。

 また、トイレに関してもご自身だけでは下衣の上げ下げ等の一連の動作をすることは難しいため介助が必要になっておられます。

 認知症の周辺症状として心理的要素からくる焦燥・徘徊に加え、中核症状として記憶障害・見当識障害・失認失行が主な症状があります。

 デイケア内でのIさんの発言としてよく出てくる具体的な訴えとしては「トイレに行きたい」「お茶を飲みたい」という事です。

 認知症の人は同じ事を何回も言うことがありますが、これに行動が伴っています。「トイレに行きたい」「お茶を飲みたい」と何回も繰り返し、実際にその行動に出ようとしてしまいます。

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「トイレに行きたい」という頻回の訴えによるリスクと対策

 「トイレに行きたい」という訴えをIさんは頻回にされるのですが、実際のところ、トイレにいって便座へ座ってもほとんど排泄されなかったり、排泄されたとしてもその後またすぐに「トイレに行きたい」と訴えられたりといった様子です。

 頻回にトイレに行ってしまうということは尿意を感じる前に出すクセがついてしまい、膀胱が水分を溜める働きを邪魔してしまい、正常な量を溜める大きさまで膨らみ切れなくなってしまいます(膀胱に200mlほどが溜まったら尿意が起こります)。

 これらのリスクからも訴えがある度にトイレに行ってしまうということはIさん自身にとって良いことではありません。

 しかし、職員が「もう少し間を空けて行きましょうか。」と伝えてもなかなか理解が得られず、ご自身で車いすを自走してトイレまで向かってしまいます。

 そうすると、慣れない動作をご自身1人でやってしまうといった状況になり、車いすのフットプレートを上げ忘れたまま立ち上がってしまい、つまずいて転倒してしまうといったリスクも考えられます。

 これらに関しスタッフ間で考え出した対策としては、トイレに行く時間帯を決めてホワイトボードに記入するようにしました。

 声による伝え方だけではなく、目で見て視覚的にも認識しやすいようにすることで「あ、さっき行ったのか。」といったようにご自身の中で納得していただけるようになりました。

 発達障害の子供も言葉で言われるよりも、絵などの視覚で示した方が理解が早いと聞いたことがあり、これを応用しました。

「お茶を飲みたい」という頻回の訴えによるリスクと対策

 お茶に関する訴えもトイレと同様、頻回に「お茶が飲みたい」との訴えがありますが全てに応じてしまうと、過剰な飲水からくる水中毒といったリスクも考えられます。

 これに対する対策としては、水分の適正摂取量は1日1.5リットルと言われている基準からIさん用のペットボトルを作り、一日の中で飲んでも大丈夫な量の水をあらかじめ用意しました。

 そうすることで、ご自身であとどれくらいのお茶を飲むことが出来るのかを把握しやすくなるに加え、職員間でもIさんが現段階でどれだけのお茶を飲んだのかということを共通認識できるようになり、Iさんの訴えに対しても「残りはお昼ご飯のときに飲みましょうね。」といったように明確に返答ができるようになりました。

 これもトイレに頻回に行くときの対応と同じく「視覚」に訴えています。

 どちらの訴えに関しても、「行ったこと」「飲んだこと」を忘れてしまうといった部分からきていると思います。

 何度もトイレに行くことのリスクや水を飲むことのリスクを忠実に伝えることは難しくても、「行ったこと」「飲んだこと」の事実を伝える工夫をすることができれば伝わるということを学ばせていただいた事例でした。

[参考記事]
「認知症の人が性的な言動を繰り返す場合にはどうしたらいいの?」

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