有料老人ホームに入所されていた78歳のNさん(女性)のお話をします。Nさんは四人姉妹の末っ子に生まれました。農家にお嫁に行き、二人の娘さんを育て上げました。50歳の時に旦那さんを亡くされ、長女親子と暮らしていましたが、その長女も亡くなりお孫さんと暮らしていました。
Nさんは軽度の認知症を発症されていましたがお孫さんのサポートもあり在宅生活を続けていました。しかし、お孫さんが再婚することになり家を出ることになったことで有料老人ホームに入所の運びになりました。
入所後、認知症が進行
有料老人ホームには先にNさんのお姉さんであるSさんが入居されていました。Sさんは重度の認知症を患っておりスタッフのサポート無しでは生活できない状態です。初めは姉妹仲良く過ごされていたのですが、徐々にNさんの認知症が進行していき、Sさんが何もできないことにイライラし、Sさんに当たり始めました。
NさんはSさんの入浴介助やトイレ介助にも付いていくようになり、スタッフがSさんから離れるのを待って、Sさんを叱責したり、時には言い返すSさんに暴力を振るう事もありました。
その他にもNさんは食べ物では無いものを口に入れてしまう異食行為をするようになりました。口の中に入れてたものは、ボタン・紙パンツのポリマー、カメムシ等です。時には便もありました。口に入れそうな物を隠したり、見守りを行なっていたのですが、異食行為は徐々に増えていきました。
このままでは危険だと判断し、異食行為をとってしまう原因を探るカンファレンスを行いました。
異食行為に関するカンファレンス
・Nさんのストレスの原因と過去を知る
まず、スタッフ側にも問題があり、異食行為によっての事故を防ぐために付きっきりで対応していたことやNさんのお部屋の荷物を隠してりしていたことが抑制につながり、Nさんに過度のストレスがかかっていたのではと推測しました。
そして、お孫さんに来ていただいて、Nさんと同居していた時の生活歴や家族歴を聞きました。Nさんは炊事や洗濯など家事全般をすることにやり甲斐を感じていたそうです。また、ひ孫さんの服を選ぶのがとても好きだったそうです。家族歴として、Nさんは長女で跡取りとして大事にされてきたSさんが大嫌いで距離を置いていた事も知ることが出来ました。
・改善策の実行
改善策として、隠してあったものはNさんの部屋へ戻し、付きっきりではなくNさんが気づかない距離を取り見守りを行ないました。
後は他の入所者の相手をしている振りをしながらや事務業務をしながら、こそこそ見守りました。1〜2日間はスタッフの動きが気になっていたようでしたが、3日目からは気にされなくなりストレスが減っていきました。
その後、スタッフに対しての警戒心がなくなった頃に次のアプローチとして、人参の皮むきや洗濯物たたみ等、Nさんの負担にならない程度の家事作業を取り入れたり、一緒に洋服を選んだりとNさんがやり甲斐を感じる取り組みをやっていきました。
このような取り組みにより異食行為も無くなるまでには至りませんでしたが、少なくなってきていました。
口に入れてしまった時は慌てず、口腔ケアに誘ったり、飴など口にして良い物と交換しました。口腔ケアは施設で行なっていましたが、便や虫など衛生上良くないものを口にしてしまった時だけです。
お姉さん(Sさん)と喧嘩をしないための対策
NさんとSさんの距離を置くことにしてみました。初めは距離をとることに反対していたNさんでしたが、Nさんのお孫さんからNさん・Sさんの確執の話を聞き、我々は根深いものを感じました。
Sさん家族はこうなることを予想していたようで、Nさんが一緒に入所されることに反対していたそうです。両家族が納得されたため、SさんにはNさんの目に入らないよう別棟に移動していただきました。初めは気にしていたNでしたが次第に落ち着き、笑顔も出てくるようになってきました。
まとめ
今回の事例で気付かされたのは、私たちスタッフは事故を恐れるあまり、利用者様にストレスを与えることがある事を認識させられました。
また、利用者様の家族歴・生活歴を知ることがとても重要なことだと考えさせられることになりました。
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