今回は89歳の男性(Aさん)のお話をします。お子さんはおらず、長年奥様と二人で生活されていらっしゃいました。戦時中は軍属の研究職として働き、戦後も長く研究者として仕事をされてこられた方で、ご自宅には学術書や専門的な書籍がたくさん並んでいます。
10年前に奥様が認知症を発症され、訪問介護を受けながら夫であるAさんが家事と介護を行ない、お二人で生活しておられました。しかしだんだんと自宅での生活が困難になり、奥様は5年前から特別養護老人ホームへ入所、そして1年前に他界されました。
Aさん自身も3年前から認知症を発症し、もともと不自由だった足がさらに悪くなったこともきっかけで訪問介護と通所介護を受けることになりました。しかし、介護サービスを使うことに消極的でした。
介護サービスを嫌がる
もともと奥様の介護をしていたAさん。何でも自分でやりたいという気持ちが強かったですが、食事を摂っていなかったり、掃除やゴミ捨ても終わっていないような状態で家の中がゴミだらけでした。
お風呂に入ることを忘れることや、清潔にご自身で使うことができていたリハビリ用パンツやパッドも交換できていないことが多々ありました。
お子様がいらっしゃらず、健在の親族の方がいらっしゃいませんので、ご近所の方が心配して食事のおすそわけを持ってこられることもありますが、それも毎日ではないので基本的には一人で不健康、不衛生な生活が続いていました。
しかし、自分が認知症であるということを認めたくなく、訪問介護員に対して「今日はなんでも終わっているから、サービスはいいよ」と言うこともしばしば。通所介護を進めても、自分は大丈夫だからとずっと断っていらっしゃいました。
介護サービスを受けてもらうための対策
そこで民生委員やケアマネージャーが相談し、少しずつ対処法を考えていくことになりました。まずは何としても食事を摂っていただくことが重要です。そこで地域の社会福祉協議会の配食サービスを利用することにしました。
1食当たり400円から600円くらいの価格帯ですので、それほど経済的に無理なく利用していました。また、配達人が直接、手渡ししてくれるので、何か変化があった場合にも迅速に対応することも可能になります。
食事を定期的に食べるようになり、以前よりも見た目がふっくらしてきて、栄養状態が良くなったことが確認できました。
また、Aさんが利用する施設がショートステイ・デイサービス・訪問介護の3部門がある事業所だったこともあり、訪問介護員の勧めでデイサービスへも通っていただくことになりました。
幸い、何名かいる訪問介護員のうちの一人に対してはAさんも気が合うようで、その訪問介護員がデイサービスの送迎も兼任することで何とか送迎車両に乗っていただけるようになりました。
いつも家に来てお話し相手になっていた訪問介護員が運転する車に乗って、お散歩気分でデイサービスへ行き、週に3日入浴とレクレーション、リハビリなどを行なうようになりました。レクレーションは、運動系では風船渡しや風船バレー、文化系では書道やしり取りといったものです。カラオケ大会などもあります。リハビリは理学療法士のもとでその方にあった筋力トレーニングや体操などを実施しています。
最初は嫌がっていたAさんですが、デイサービスにも慣れてきてレクレーションや季節のイベントを楽しみにしていただけるようになりました。
また、なじみではない訪問介護員が家を訪問して掃除を手伝ったりゴミ捨てをしたりすることも嫌がらず、「昨日のデイではね…」と会話も弾むようになりました。
Aさんと話が合う人物が懸け橋となって様々なサービスを利用していただくことができるようになり、全てがいい方向に進んでいきました。
[参考記事]
「認知症の人がデイサービスに行かない理由とその対応」
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