人が健康でいるためには、食事から十分な栄養を摂ることが必要不可欠。でも、食べることを嫌がって食事を拒否する認知症の人はわりと多いです。
食事をしようとしない高齢者に何とか少しでも食べてもらおうと施設でもあらゆる工夫をしていますが、中にはとても苦労をするケースもあります。
今回は、食べようとしない認知症患者への対応に関して、効果のあった実例を紹介したいと思います。
食事を摂ろうとしないBさん(90代女性)の例
私が特養で働いていたころ、なかなか食べようとせず食事介助にひどく時間のかかるBさん(90代女性)という利用者がいました。
Bさんは認知症で足も悪く、一日中車イスで過ごしていましたが、ほとんど言葉を発しないためなかなかスムーズなコミュニケーションが取れません。
施設では食事の時間が明確に決まっているため、Bさんの食事担当になった職員はみな、何とかBさんにひと口でも多く食べてもらおうと必死でした。
看護師からは「食事は半分以上、水分は最低でも200㎖以上」という指示が出ているのに、まったく口を開けようとしないBさんにどうやってそれだけの量の食事や水分を摂ってもらうか、職員は困り果てていました。
■なぜ食べるのを嫌がるの?
認知症の人が食べるのを嫌がるのには、一般的に下記のような理由があるとされています。
1.食欲がない、体調が悪い
2.虫歯や口内炎など、食べると痛みが生じる
3.飲み込む力が衰えている
4.食べ物だと分からない
5.食べ方を忘れてしまった
6.入れ歯が合っていない
Bさんの場合、これらのどれに当てはまるのか考えてみましたが、会話がままならないためはっきりとした理由がわかりません。
口腔内には特に問題はなく、虫歯や口内炎や入れ歯が原因ではなさそうです。また、看護師によるバイタルチェックもしっかり行っているので体調不良というわけでもありません。職員による完全介助のため、「食べ物だと分からない」や「食べ方が分からない」という線も違います。
そこで、料理を刻み食にしてみたりトロミを付けてみたりと、Bさんに対し思い付く限りの方法を試してみることにしました。しかし、どの方法もあまり効果がありません。
でも実は、Bさんはデザートなどの甘いものだけは自ら口を開けて積極的に食べるのです。ゼリーやプリン、スポンジケーキなど、おやつの時間に出る甘い物、とくに柔らかい食感のものが好みのようでした。
その後、Bさんの家族と話をする機会があり、Bさんは昔から大の甘党だということ、食事に関しては以前よりかなり偏食気味だったことが明らかになりました。
とは言え、甘いものばかり食べるのも問題です。そこで、甘いものと主食や主菜を交互に食べてもらうといった方法で、何とか以前よりも料理を食べてくれるようになりました。
■まずは食事を嫌がる理由を探ってみる
食事を嫌がる認知症患者の場合、ほとんどのケースで上記の1~6の項目に当てはまることが多いかと思いますが、中にはBさんのように元から好き嫌いが激しく、嫌いなものは頑として受け付けないという人もいます。
以前、熱いものが一切食べられず、味噌汁やスープも職員にとっては「ぬるい」を通り越して「冷たい」と感じるくらいまで冷まさないと食べてくれない人もいました。
1~6の項目で解決しなかった場合は、なにかもっと本人が食事を嫌がる潜在的な理由があるのかもしれません。まずはその理由を探ることが、解決への糸口になります。
普通の感覚ではちょっと信じられないような嗜好の人もいるので、思い込みは禁物。なかなか解決しない問題に関しては、想像力を駆使してあらゆる角度から探ってみることが大切です。
■まとめ
施設では食事をとってくれない利用者は悩みの元ですよね。なんとか食べてもらわないと‥‥と必死になるあまり、つい無理強いをしてしまって利用者の拒否に拍車がかかってしまうケースもあります。
無理に食べ物を口に入れると、喉に詰まったり誤嚥を起こしたりする危険があるので、絶対にやめましょう。
理由が分かれば解決へ向けた対策も立てられます。利用者と職員双方のストレスを減らしていくには、利用者の心の声に耳を傾ける努力を惜しんではなりませんね。
[参考記事]
「失認などにより食事ができない認知症の人への対応」
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