特別養護老人ホームに入所されているAさん(80代男性)は認知症ではありますが比較的軽度であり、自分でご飯は食べれますし、トイレも誘導さえすれば自分で出来ます。
そんなAさんですが趣味は40代の頃から始めていた新聞の切り抜きです。ハサミを持ち毎朝新聞を受け取るとスクラップブックに張り付けていきます。30年近くやっているので結構な量が溜まっています。このスクラップブックが自宅にもあるし、特別養護老人ホームの部屋にもあります。
Aさんの入居時の理由は「物を無くした」という妄想からの暴力行為との事で、家族では手に負えなくて入居することになりました。どの老人施設でも暴力行為というのは凄く嫌がられています。職員に何かをするのはどうとでもなるのですが、他の利用者さんにされると最悪訴訟などの大問題になるので、Aさんが暴力行為に及ばないか職員は常に注意観察を行っていました。
暴力行為を起こしてしまう
とある夏の日、突然女性職員の悲鳴が施設内に響きました。私が向かうとAさんが男性職員に向かって殴りかかっており、「お前が盗んだのか~」「返せ~」と泣きながら怒鳴っているのです。
直ぐに他の職員と協力し、別室に移動させて落ち着くまで声掛け等を行いました。同時にその場にいた職員に事情を聞きますと「部屋から何かを探す声がするので訪室すると突然殴りかかってきた」との事でしたが、原因は不明でした。
その後も暴力行為は月に1回程度と少なめですが起きており、殴られるケースも発生しています。
原因の特定
職員間で何度も話し合い、暴力行為に及ぶ要因が何かあるはずだと原因の特定を行うことになりました。ご家族に聞き取りを行いながらこれまでの暴力行為発生時の記録を読み返し、共通部分を探していくと「あること」が分かりました。それはいつもは大切に整理整頓されている10冊近いスクラップブックが散らかっているのです。
「特別養護老人ホームの自分の部屋にあるスクラップブックは一部なのだから、何かが足らないと思って探しているのでは?」と意見が出ました。
実際に実家に行きスクラップブックを見ていくと3か月程空白の時間があることに気付きました。その部分のスクラップブックがないのです。どうしたのか聞くとA様の奥さんが孫が遊びに来ていた時に持ち出して紛失してしまったそうです。
もしかしたら今でもそれを引きずっているのかもしれないと考え、図書館にある新聞を3か月コピーし、Aさんに渡すと「これだよこれ」とハサミを持ち出し、一心不乱にスクラップブックに張り付けていきました。
暴力行為の解消へ
やはり大切なスクラップブックが無くなったことを心の何処かで気にしていたようで、それ以降は暴力行為は無くなりました。家族は勿論、当初私たちも、認知症による妄想だと決めつけていました。妄想と決めつけてしまうのは簡単かもしれません。精神安定剤などの興奮を抑える薬を飲んでもらうなどの処置で終わらせていた事例が過去にもあり、改めて自分たちの介護の在り方を考え直す機会にもなりました。
暴力・暴言行為にはこのように理由があるケースもあります。ただ認知症のせいにするのではなく、過去の記録を読み分析したり、家族にお話を聞いたりして、解決に向けて努力していかなければなりません。
[参考記事]
「認知症による苛立ちや暴力行為が軽減した対応例」
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