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認知症による失禁や弄便(便を壁に付けるなど)に対する対応

 

 私は看護師として多くの認知症の方と関わっています。またヘルパーさんや認知症のご家族の方々とも意見交換する機会も多くあります。その経験をもとに、今回は認知症の周辺症状(BPSD)の中でも多くの介護者の悩みである排泄に関すること(特に失禁と弄便)について、その原因や実際に行っている対処法を紹介していきたいと思います。

※弄便とはオムツなどから取りだした便を壁に塗り付けたりする行為です。原因は便が溜まったオムツなどの気持ち悪さを解消するために便を取り出そうとするためと言われています。

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認知症の症状―中核症状と周辺症状(BPSD)―

まず、認知症の症状について簡単にまとめます。
中核症状
: 記憶障害、問題解決能力や判断力の低下、失語、失認など
(参考記事「認知症の中核症状って一体どんな症状なの?」)

周辺症状: 徘徊、暴力行為、介護への抵抗、妄想や幻覚、うつ、異食、失禁や弄便など
(参考記事「認知症の周辺症状ってどんな症状なの?」)

 中核症状は認知症であれば必ず現れるものです。それとは異なり周辺症状は周りの環境や人との関わり、身体疾患、使用している薬物によって出現するもので、介護者の関わり方によって軽減することができるものです。
では実際に、失禁と弄便について、関わり方、原因、対応策について説明していきます。

1.失禁や弄便を否定しない

 まず、「失禁や弄便を否定しない」は基本的なことであり、一番大切なことです。失禁や弄便は、2種類に分別される認知症の症状の中でも周辺症状にあたります。周辺症状は「なぜそういう行動をとっているのか」を理解することによって軽減することが可能なものです。そのため、汚いことをしているからといって否定するのではなく、「なぜこういうことをしているのか」と行動の理由を探ること、できる限り共感する態度で関わることが、症状の軽減へとつながり、ご本人も介護者も共に穏やかに過ごすことができることにつながります(行動の理由は次章で書きます)。

 逆に、否定したり怒ってしまうことが続いたりする場合、なぜ怒られているのかがよく分からず、不快な体験(嫌な感情)をしているということだけがご本人の中に蓄積してしまい、このことが周辺症状をさらに悪化させてしまうのです。我々、施設や病院などのスタッフは職業人として認知症の方に関わっていますが、日々介護をされているご家族は、親がこのようなことをしているやるせなさから、つい怒ってしまうことが多いとのお話はよく伺います。そのような気持ちになってしまうのは自然なことですが、できる限りその気持ちをご本人には表出せず、問題を少しでも解決できる方向に思考を転換していきましょう。

2.失禁や弄便の原因とは

 上では、失禁や弄便には理由があり、それを理解して対応策を考えることが重要であるということを説明しました。ここでは実際にその理由について、経験をもとに説明していきたいと思います。
1)トイレに行きたいという感覚が分からない
 この場合はそばにいる介護者の腕の見せ所です。ご本人のトイレの周期をつかみ、トイレ誘導したり、また、よく観察していると失禁してしまう前に同じようなサインがみられる場合があります。例えば、普段座って過ごしているのに急に徘徊し始める、ズボンの中に手を入れようとするなど。観察により、周期やサインを知ることができれば、かなり状況は改善し、お互いが気持ちよく過ごせる時間が増えます。

2)トイレの場所が分からない
 トイレに行きたいという感覚はあるのに場所が分からず、その間に失禁してしまうというものです。場所の認識がないのは認知症の見当識障害(中核障害)です。見当識障害になると時間の感覚もなくなり、今居る場所も分からなくなります。徘徊している間に失禁してしまうことが多い場合はこれを疑います。

3)気持ち悪さはあるがそれをどうしていいか分からない
 パンツやオムツの中に便が溜まってしまい、気持ち悪さを自覚しているものの、どうしていいか分からない場合、パンツの中をいじってしまい、便であれば手で捏ねたり、壁になすりつけたりしてしまいます。場合によっては脱ぎ捨てたり、衝動的にオムツをとって投げ捨てたりしてしまうこともあります。

3.それぞれの原因に沿った実際の対応策

1)トイレにいきたいという感覚が分からない
 ご本人の行動をよく観察します。介護者が複数人いる場合はそれぞれの情報を出し合って意見交換すると、より効率よく行動パターンを掴むことができます。観察によって行動パターンを掴むことができれば、ご本人のトイレ周期やサインに基づきトイレに誘導することで、失禁やそれによる弄便の回数は格段に減少します。

2)トイレの場所がわからない
 ご本人の行動をよく観察していると、徘徊しているうちに失禁していることが多い場合はまず、ご本人が普段よく過ごしている場所からトイレへの目印を壁に貼ります。また、夜間であればベッドの側にポータブルトイレを置いて置くことで、トイレへの場所を明確にし問題の解決を図ります。またご本人の居場所をトイレが分かりやすい場所にしてあげることも方法の一つです。

3)気持ち悪さはあるがそれをどうしていいか分からない
 この場合も排泄パターンを観察するというのが大きな手がかりです。事前にサインを読み取ることができトイレ誘導することができればご本人もオムツの中の便の気持ち悪さを感じる必要もありません。

 すでに出てしまった場合でも、直後であればズボン周辺を触り始めたりする程度で急に壁に塗りつけたりすることばほぼありません。「あれ?」と思ったらトイレに連れていき綺麗にしてあげれば問題行動には至りません。

 しかし、介護者もずっとつきっきり側にいて観察できるわけではないということも多いと思います。その場合はせめて片付けしやすいように、ご本人がよく汚しやすい部分(壁など)にビニールシートを貼って置くなどしておくと良いでしょう。

 以上のように原因やその対応策について解説していきましたが、ご家族として介護されている場合は頭では分かっていても…という場合は多いと思います。その場合は、施設や病院、色々な介護サービスを受けながら住み慣れたお家で生活することも可能ですので一度、ケアマネージャーさん等介護に詳しい専門職の方に相談してみるのも良いかと思います。

[参考記事]
「認知症にいる弄便行為。壁一面に大便を塗る事例」

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