特別養護老人ホームに入所して2年になるAさん。年齢は80歳、女性、要介護4、日中は車イスにて移動して生活されています。簡単なコミュニケーションは取れますが、1日の日課や場所の理解、意思の伝達は困難です。性格は明るく、いつも近くの入居者の方の話を聞いてニコニコ笑っています。
入所前は、旦那さんと2人で暮らしていましたが、Aさんが脳梗塞で倒れ、左上下肢に麻痺が残り、認知症も進行していったため、自宅で生活することが困難になり、入所に至りました。
入所当時は、麻痺はありましたが杖歩行で、尿意もあったので布の失禁パンツを使用していました。時おり『そろそろ帰りますか』と立ち上がる姿がありましたが、『今日はお泊まりですよ』と職員が声かけをすると『そうですか、私ったら』とニコニコと笑顔が見られていました。
転倒による骨折から、認知症が進行する
入所から1年3ヶ月が過ぎた頃、転倒による右大腿部頚部骨折で車イスの生活になりました。トイレに行きたかったのか、帰ろうとしたのか、椅子から立ちあがり歩きだそうとしたところ転倒してしまいました。骨折により、手術も含め入院になりました。
退院して施設に戻った時には、尿意はなくなり布の失禁パンツから紙パンツになりました。また、認知症も進行し、ズボンの紐や洋服をいじったり、ぼーっとして1日を過ごすようになりました。職員の声かけに対しても、無表情で笑顔が見られなくなりました。
ある時、Aさんの車イスの周辺にたくさんの綿のようなものが落ちていました。よく見ると、紙パンツやパットのちぎられたものでした。Aさんは、座りなからズボンの中に手を入れてパンツやパットをちぎっていました。
その後もいじる頻度は増え、1日に5~6回その行為は続きました。時には、失禁したパットをちぎるため、ポリマーも散乱し、Aさんの手にもポリマーが付着しました。それにより、Aさんの手と陰部にカビの一種である、白癬菌が増殖してしまいました。
オムツやパットちぎりに対する対策
職場では、Aさんのカンファレンスが行われました。
その中で、Aさんがそのような行動をとるのはオムツが不快だからではないかという意見が出ました。骨折になる前まで、布の失禁パンツを使用しており、紙パンツや失禁したパットが不快なのではないかという考えました。
この結論から、まず2時間おきのトイレ誘導を行い、Aさんの排尿リズムを見つけ出そうとしました。しかし、排尿感覚はその都度違い、リズムをつかむことが出来ませんでした。
次に、紙パンツではなく布の失禁パンツにパットの組み合わせで対応することにしました。最初のうちは以前よりパットいじりが見られないと思いましたが、今度はパット全部を腰を持ち上げて引抜き、いじったり、たたんだりするようになりました。
再度のカンファレンス
対策の結果を含め、再度カンファレンスを行いました。
当初は、紙パンツや失禁したパットが不快だからではという考えでしたが、今回はAさんの行動は不快から来るものではなく、何か意味があるのではないかと考えました。
そこで、Aさんのパットをちぎる、たたむの行動が、Aさんが若い頃得意で趣味としていた洋裁の名残りではないかということになりました。
骨折する前も、椅子に座りながらズボンの紐をいじったり、洋服を伸ばしたり、下着を出して縛ったりしていました。洋服がすぐ伸びてしまうため、新しい衣類を持ってきてほしいと連絡をした際、家族は、Aさんは洋裁が好きで色々なものを作っていたので指に何か触れると指が覚えて動いているのでしょうという話をしていました。
そこで、Aさんには座っている間、布や紐を渡してみました。すると、今まで1日5~6回以上あったオムツやパットをいじりが、1~2回に減りました。渡した布や紐を結んだり、ちぎったりして、時々飽きてしまうのか気になるのか、ズボンに手を入れてオムツをいじる程度になりました。
今回職員は、オムツやパット=不快なものという職員の思いから対策を考えてしまいましたが、Aさんの普段の行動や入所前の生活等を含めて考えると、オムツやパットちぎり、いじりは洋裁をしている感覚だったことが分かりました。
何かしたいけど何もない、ズボンをいじってたら、何かあった、というような状況だったと思います。この対応により、現在は、陰部や手の白癬菌は改善され、オムツやパットいじり、ちぎりは見られなくなりました。
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