Sさんは、もうすぐ100歳になられます。脳梗塞を起こされてから、身体にマヒが残り、歩けなくなりました。脳梗塞の後には脳血管型認知症も発症されています。
自分で体を起こすことは出来ませんが、座位の姿勢を取るまで介助すると自分で保つことはできます。食事はスプーンを使い自分で食べることができます。少しハイで調子が良い時と、不機嫌な時があります。不機嫌な時は表情も険しく、スタッフの声かけにも無言です。こういう時にオムツ交換をしようとすると、つねってきたり、叩いたり、暴言を吐かれることもあります。
昼夜逆転と幻覚による独語
Sさんは、時折、夜に認知症を原因とする幻覚が見え、そういう日は興奮気味で、ずっと誰かと話し続けています。幻覚が起こった場合は、昼夜逆転が起こり、翌日は一日中寝ています。そういう時は食事時間に声かけしても全く目を覚まされないので食事が摂れなくなることもありました。1時間は置いておくのですが、それ以上になると食中毒への心配と、次の食事への配慮から破棄します。
幻覚時には何者かに話かけるのと、時折、その対象に怒鳴ることもあり、同室の方が眠れず苦情が来ていました。
生活のリズムを整える
スタッフの対応として、まず考えたのは部屋の移動です。同部屋の方から苦情が来たため、その人たちへの配慮です。そして、幻覚は夜に起こるので、その時間に合わせて眠剤や幻覚を抑える薬を一度処方してもらったのですが、薬が効きすぎるようで、昼間もうつらうつらするようになりました。そこで薬を飲まない方法での対応を検討することになりました。
昼夜逆転してない時でも普段の日中はベットでほとんど横になって過ごされていたので、車いすに座りテレビのある部屋で過ごしてもらうようにしました。そうしたところ、気分の良い時は、同じようにテレビを見ている他の入所者に声をかけられると受け答えもされます。
テレビの前で独語を言い続けておられるときは、少し離れたところで過ごしていただき、職員が話しかけるようにしました。これは、幻覚の世界から現実の世界に戻ってきてもらうためです。職員の存在を意識されると、職員の質問に受け答えされます。
昼夜逆転の時には昼間寝ている時でも、顔を拭くための冷たいおしぼりを用意して、意識を覚醒させるための働きかけをするようにしました。また、その間に目を覚ました時に食べてもらえるようなパンなどの軽食を準備しておくようにしました。夜に幻覚が起きる時が多いので、無理にでも昼に活動量を増やす必要がありました。
暴言に対しては、「Sさん今日は機嫌が悪いようだね」「体の調子が悪いのかな?」などその暴言の内容自体には直接やり取りしないようにしました。要求など具体的な内容があった場合は「わかりました」と要求に答えます。
暴力の対応では、表情が険しい時は要注意なので、手の届くところに顔を持っていかないように注意しました。軽食で空腹が解消されると不機嫌な顔をしておられる回数も減ってきました。また、水不足が幻覚の原因になることもあるので、水分をしっかり摂っていただくようにしました。
このように昼間の活動を増やしたので、夜間はよく眠られるようになり、夜間の独語は少なくなりました。
感情的にならない
仕事とはいえ暴力や暴言があると、思わずかっとしてしまうことがあります。介護の仕事に携わっていると暴言にイライラしないための技術が必要です。そのためにも認知症について理解を深めたり、対応する前にワンクッション置くなどするといいです。
暴力に対してはこちらのダメージを極力減らせるように、手の届かないところから介護する、2人で介護するなど工夫すれば対処できます。
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