「ご飯まだかな」
「お母さん、さっきお昼ごはん食べたところでしょう」
「朝から何も食べさせてもらっていない、なんか食べさせて」
「もう、何を言っているのですか、本当に怒りますよ」
以前はテレビドラマ見られた認知症のシーンです。
介護を知らない人には笑い話に聞こえるような話も介護経験の携わるものにとって、「ご飯まだ?」は精神的にとても負担が大きい言葉なのです。
食事介護は重労働
3大介護のひとつである食事介護は、横に坐って食事を口に運ぶだけではないのです。お年寄りは歯や消化器官に問題があって普通の食事ができない方は大勢います。柔らかくしたり、食材を一口大にしたり、刻む必要があったり・・その人健康状態に合った食事を作る必要があります。
そもそも献立だって大変です。お年寄りは食べる量が少ないのでその中で必要なカロリーと栄養素を摂ってもらうことは正に至難の業。
それに食べてもらうのだって簡単ではありません。一口ずつ運び確実に飲み込むのを確認しないといけません、食事の途中でむせるわ、吐き出すわ・・・食べた後は、口腔ケアとしてうがいをさせて歯磨きや入れ歯の洗浄もしないといけませんし、食事をこぼしたエプロンや服の洗濯もあります。食事介護をしたあとは、ほんとうにぐったりとしてしまいます。
「ご飯まだ食べていない」はよくある症状
毎食後「ご飯まだ食べていない」と言う方は意外と少ないのですが、時々言う、たまに言うとなるとおそらくほぼすべての認知症の方に出る症状といえます。
認知症では脳が委縮することで様々の症例が現れ、「ご飯食べていない」問題を引き起こす満腹感の障害もその一つです。元々、人の満腹感はいい加減なところがあります。食後すぐにお腹が空いたとか、たくさん食べたはずなのにまだ食べられるとか、何も食べていないのにお腹が空かないとか、誰にでもそんな経験はありますよね。若く元気な時でさえ満腹感は適当なもの、認知症になれば一番におかしくなるのは不思議ではありません。
お腹がすくとイライラします
空腹感とは血糖値が下がることによって発生する脳の危険視号です。「体のエネルギーが無くなってきたよ、補給しないと死んじゃうよ」という警告なのです。
この信号は消化器官を活発にさせる(お腹がなるのはこのためです)だけではなく、食料を確保するために、人間の闘争本能を掻き立て、焦りを引き起こします。
この結果、人はお腹がすくと怒りっぽくなり、イライラするのです。認知症の方が「ご飯まだ?」というときはイライラしていることが多く、日頃以上に口調がきつくなるのです。
「ご飯まだ食ていない」はバトルの臭い
大変な食事介護が終わってほっとしているときに無慈悲に浴びせられる「ご飯まだたべてない」の言葉、イラっとしてついつい強い口調で「さっき食べたでしょう」となってしまうこともあります。
言われたお年寄りも空腹感の作用でイライラしていますから、「食べさせてもらってない」と喧嘩腰になります。イライラした者同士の話が良い方向に向かうはずはありません。介護知識も経験も少ない普通の方が最後に「いい加減にしてください」と切れてしまうのも仕方がないことでしょう。
視点を変えて対応
「ごはんまだ食べてない」は介護施設では日常です。認知症の方はご飯を食べたことを忘れているのではなく、食べた記憶そのものがないのです。
ですからいくら「さっき食べたでしょう」といっても食べたことを思い出すことはありません。絶対に納得してくれないのです。
ですので「ご飯まだ?」と言われたときは「この人はお腹が空いていると感じている」と思ってください。食べ盛りの子供が「お腹が空いた」というのと同じです。
対応の仕方はいろいろあります。「今作っているからもう少し待ってくださいね」というのも一つの方法でしょうし、健康上制限がなければ飴などを食べていただいたり、お茶やスポーツドリンクにとろみをつけたものを食べてもらうこともとても有効です。
ただ気を付けてほしいのは本当に空腹ではないのでしっかりと食べると消化不良を起こしてしまいます。
まとめ
空腹感の本質は人間の生存本能がもたらす「不安」です。「不安」は認知症の様々な周辺症状を引き起こす要因です。周辺症状を抑制することは認知症の進行を抑える意味でもとても大切なことなのです。認知症介護の基本のひとつが「不安」の原因を見つけ出し、それを取り除くことです。
それは簡単なことではありませんが、一人でも多くの方が少しでも穏やかに過ごしていただくために、一つずつでもいいから不安を取り除けたらと思っています。
[参考記事]
「失認などにより食事ができない認知症の人への対応」
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