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物事に関心を失った認知症の人が笑顔を取り戻すまで

 人には3つの喜びがあるそうです。一つは「人に愛されること」そして「人に感謝されること」3つ目は「人の役に立てること」です。

 人は年をとるとこの喜びから離れていってしまうのかも知れません。特に「人の役に立てる喜び」は認知症の方には貴重なものなのでしょうね。

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物事に関心を失ったFさん

 Fさんは認知症を発症してから物事に関心を失った典型的なケースでした。家族と同居しているのですが、昼間は何をするでもなく、ずっとテレビを見ています。途中で誰かがチャンネルを変えても同じように画面を眺めていて、番組に興味がないことは明らかです。

 ほとんど外出することもないので、足腰も弱っていって、今では一人で歩くことにも不安を感じるほどでした。そんなFさんはデイサービスの施設に通ってもお風呂に入った後は、備え付けられたベッドに潜り込んで横になったまま一日を過ごしていました。レクリエーションに参加することもなく、誰かとおしゃべりをわけでもなく、ただ一日が終わるのを待っているだけという感じだったのです。

「生きること」と「活きること」

 ある日、ケアマネージャーが「Fさんが以前習字の先生をしていたことがある」との情報を持ってきたのです。Fさんに楽しい時間を過ごしてもらいたいと思っていたスタッフはイチかバチか習字に賭けてみることにしたのです。

 Fさんの自宅には当時使っていた習字道具がまだ保管してあるとのことでしたので、ケアマネージャーが家族からFさんの筆と硯を借りてきてくれました。施設では時々お習字のレクリエーションを行っていましたが、Fさんは参加されたことはありません。

 物事に興味を失って友達もいないFさんにどうやって習字を始めてもらうか、そこが大きな問題でした。この問題を解決したのは経験の浅い20代スタッフが発した「Fさんは習字を教えていたのですよね、じゃ~皆で習いましょう。」という一言でした。

 お年寄りに趣味としてお習字を勧めるのではなく、Fさんが歩んでこられた「習字の先生」という経歴・人生を活かしてもらうことにしたのです。

人の役に立てる喜び

 かくして「お習字作戦」が開始されました。いつものようにお風呂からベッドに向かうFさんにスタッフが「お習字の先生をされていたのですね、皆に教えていただきたいのですが、よろしいですか。」とお話ししたところ、「長いこと筆をもってませんし、ここには道具もありませんから」と言われました。

 この時スタッフは「おいおい、筆や硯ならいっぱいあるだろう、やっぱり施設備品の安物は使いたくなかったのだな・・お借りしてきて正解だった」と内心で思ったそうですが、そこはさすがにベテラン、最高の笑顔でしかも恭しく「先生の道具はご自宅からお借りしてきています。」と申し上げるとFさんの顔がキリリと引き締まり、「私でお役に立つのなら」とレクリエーションルームへとすたすたと歩いて行ったのです。

 よろよろと手すりにつかまりながら歩いていたFさんとはまさに別人、最後まできちんと正座をして皆に習字を教えたのです。その時にFさんは課題の字として「一」を書かれました。その字はとても力強く、美しい、認知症で気力を失った人が書いた文字とは思えないものでした。

 書道の基本の横線であり、物事の始まりでもある「一」はまさに最初にはふさわしい文字です。これがはじめの一歩なのです。習字教室はとても好評で何よりFさん自身がとても喜んでいたことから毎週行うことにしました。

 習字のない日は相変わらずのFさんですが習字の日は朝から自分で髪をといて、お化粧までするようになりました。自分が人の役に立てるという思いがFさんの心に気力を取り戻したのでしょう。

おわりに

 さてFさんの書道教室ですが翌週の二回目の課題もなんと「一」でした。スタッフ一同ずっこけそうになったのは言うまでもありません。まあ、そこは先生も生徒さんも認知症の方なので文句も出ることもなく楽しいそうに書いていました。

 書道教室は今も毎週続いています。ただ一つ気になるのは、いつになったら「一」から「二」になるのかということです。

[参考記事]
「認知症の人の習慣を変えずに介護することの大切さ」

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