今回はアルツハイマー型認知症のBさん(78才男性)についてのお話しをします。Bさんはショートステイで月に3回ほど、施設に宿泊に来ていました。
地元でも有名な大きな会社を経営していたBさんは、基本的におっとりとしていて、風情のある方でした。会社を経営していただけあって、知識も豊富で、認知症の症状があっても、面白い話をしてくださいます。
例えば、昔、有名な旅館に泊まりに行った話やどこそこの料理が美味しいなど、私が行ったこともないようなお店や観光地の話題に詳しかったです。
Bさんの職員に対するセクハラ
Bさんが、職員の誰かしらを、「昔お付き合いのあった女性」と勘違いするようになったのは、施設利用が始まってから2年を超えた頃でした。その頃には、Bさんと職員たちはだいぶ打ち解けており、Bさんは職員を自分の彼女と勘違いすることが多くなってきました。
「〇〇(昔、付き合っていた女性の名前)、僕はねえ、君に会いたかったんだよ」と、Bさんは目を細めて笑顔で手やお尻を撫でててくるというようなことが何度もありました。施設での入浴介助の時や、夜勤帯でのトイレ介助の際など、Bさんと職員の体が触れ合う際、特に一対一の介護の時はよく体を触られました。
Bさんの言い分ですと、ここは施設ではなく、一緒に泊まりに来た温泉旅館ということになっています。これは昔の彼女と勘違いしているのだなと考え、「Bさんの世界に合わせる」ことにしました。「Bさん、ここは旅館で色んな人が居る場所ですから、別な時にしてください。」と声掛けすると、やんわりとした拒否だと感じて「わかったよ、ごめんごめん」と笑顔で謝る場面もありました。
このように認知症介護の「相手を否定しない」の基本原則に則って行動しました。Bさんは、自宅での転倒時に大腿骨を骨折していて、歩行困難な方でもあったので、それ以上の行為は不可能でした。
もし、歩行できる方で、力のある男性の利用者の場合であったのならば、「付き合っていた女性の話は避ける」「話題を変える」などの別の対応していたと思います。
また、Bさんはプライドが高かったので、強く拒絶すると、暴力をふるう時がありました。認知症の症状が出てから、自分の思い通りにならないと介護者に手をあげるようになっていたのです。
そういう時は、会社の経営で大変だったことや、仕事をしていてよかった思い出のことをBさんに聞き、話を逸らしていました。それ以外の時は、穏やかで優しい性格の方でした。
セクハラを奥様に報告するかどうか
Bさんが女性職員の体を触る話は、Bさんのご家族には相談しないでおくことになりました。奥様が自宅で介護されていたので、昔のこととは言え、他の女性の話や、職員の体を触るなどの行為については、お話ししないほうがいいだろうと職員同士で話し合った結果でした。
暴力などですと、利用者の家族の方とも協議して、治療をお勧めする場合もあります。しかし、施設内での利用者からのセクハラに関しては、デリケートな問題として捉えていました。もちろん、セクハラを受けることは嫌なことですが、受け流してBさんの介護をさせていただきました。
[参考記事]
「アルツハイマー型認知症を患った校長先生が妻に暴力」
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