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自殺願望のある認知症の人への対応。家電製品のコードで首を吊ろうする

 

 今回は自殺願望のある認知症を患っている人への対応について書いて行きます。

 Aさん(80)は都内でマンション経営をして生活されていた女性の方です。Aさんには一人息子がおり、とても息子さんを大事にし、息子さんもお母さんを気遣ういい親子でした。しかし息子さんは頻繁に出張などで海外へ行かれる身で、会える時間は多くはありませんでした。

 そんな息子さんの耳に、自分のお母さんがマンションの管理でトラブルになっているとの話が入り、急ぎAさんのもとへ向かうと激高し、「あの人もこの人も家賃を払わずに私を馬鹿にしている」と訴えてきました。聞くと家賃は口座振り込みとなっていましたが、「自分の通帳が偽造されている、みんなうそをついている」ということでした。

 息子さんが改めて調べると、入金の事実はあり、全員が滞りなく払っていました。Aさんの通帳も間違いなく本物でしたが、その事実を認めてくれないばかりか「お前まで私をだますのか」と息子に怒り出し、「もういい、お前を殺して私も死ぬ」と錯乱し警察を呼ぶ事態となってしまいました。

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Aさんと私たちの出会い

 息子さんは仕事で多忙の身、困窮し、悩みぬいたすえに出した結論は、「母を施設に預ける」という選択でした。苦渋の決断でしたが、当のAさんにしてみれば「全員が自分をだまし、わけのわからないところに連れてこられた」という思いでいっぱいです。

 そこから、Aさんと私たちの奮闘が始まりました。

 Aさんは個室対応となりましたが、ブラインドを開け閉めするヒモや家電製品のコードで首を吊ろうとしていたり、果ては窓から飛び降りようとするなど自殺願望の塊で、職員が声をかけても「うるさい!」「私は死ぬ!」と聞き入れる様子がありません。職員たちもAさんを静止はしますが、一向に訴えがなくならず疲れ果ててしまいました。

気づき

 そんな自殺をしないよう監視するばかりの生活でしたが、四六時中興奮しているわけではないことに職員たちは気づきました。

 一人でいるとき、時々は窓から眺めるそのまなざしが、寂しそうに目じりが下がる姿。落ち着かず居室内を歩かれているとき、両腕を腰に当て、「まったく、もう…」とため息をついたり。そうした、興奮するばかりではない人間らしい仕草をみて、職員たちはAさんに対して「私たちは、この人に何をしてあげられるだろうか」と考え始めました。

 息子さんを交えての話し合いで、若いころは教師をしていたこと、スポーツが好きでよく体を動かしていたこと、面倒見のいい性格だということを知りました。

 そんな折、職員たちは、とある光景を目にしました。認知症によりつねに不安感があり、見当識障害のある他の利用者さんに「そんなに泣くものじゃない、しっかりするんだよ」「行きたいところがわからないなら、私についてくればいい」と毅然とした、面倒見のいいいかにも教師といったAさんの姿をみたのです。

 Aさんはことあるごとにその利用者さんを気にかけ、その利用者さんもAさんを頼り二人はいつも一緒にいるようになりました。

 その姿は、いつも自殺しようと興奮しているAさんとは違い、背筋の伸びた毅然とした声、頼られることで守ってやらなければという責任感ある先生そのものでした。

 そこで職員たちは、Aさんに学校の先生として接してみることにしました。リコーダーをもってAさんに吹き方を教わりに行ったり、簡単な計算問題をもって「宿題を教えてください」と言ったり。先生と呼ばれるAさんは時折笑みも見せるなど、教師としての自分に誇りを持った自信あふれる姿で生活することができるようになりました。

認知症とは

 認知症になると、「自分は自分である」という根拠を奪われ、常に不安しかないと思います。ここはどこなのか、どこへ行けばいいのか、こうだと思ったことがなんで否定されるのか、できていたはずなのになぜ分からないのか。

 それまではみんなに頼られ、あれほど充実していたのになぜ今みんなに嘘をつかれ、息子にも否定されるのか?悲しくて死にたい…そうした思いから、自殺願望があったのではないかと思います。

 どれだけ年をとっても、認知できなくなっても、人生で一番輝いていた時のことを人はなかなか忘れません。教師であったことにプライドを持つAさんにはこれからも教師らしく生きていって欲しいと思っています。

[参考記事]
「老老介護により認知症の妻から暴言を受け、自殺寸前の夫」

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