認知症の症状としてよく見られる行為には「徘徊」や「物忘れ」、そして「物盗られ妄想」があります。物盗られ妄想はどんな症状かと言うと、自分のお金や宝石などを実際には盗まれていないのに、「盗まれた」と思いこんでしまう事です。そして、中には「あの人が盗んだ」と、何も盗んでない人を勝手に犯人扱いしてしまう人もいるのです。
訪問介護のヘルパー、介護施設の職員、自分の世話をしてくれている家族など、身近な人を疑う場合が多いです。
82才女性の物盗られ妄想
グループホームに入所していた認知症で要介護2の女性Aさん(82才)にも、物盗られ妄想がありました。私の働いていたグループホームでは、バックや財布などは本人の希望がある場合は、利用者の部屋に置いていましたが、基本的にお金などの貴重品は事務所で預かっていました。
買い物に行く時などに、お金を渡して、帰ってきたらまた事務所に戻すというシステムでした。Aさんにもその事は説明して了承しており、最初の一年くらいはなんの訴えもありませんでした。
ところが、入所して一年ほど経つと、その女性の物忘れもひどくなり、それと比例する形で「物盗られ妄想」が出てきたのです。
なぜか犯人にされたのは、Aさんのお世話を一番よくしていた職員Bさんでした。最初はAさんからBさんに詰め寄るような事はなく、他の職員に「あの人が私の財布のお金を盗ったのよ」と言っていたのです。
もちろんそんな事実はないと職員の間では分かっていますので、Aさんの「物盗られ妄想」をどう対処するか職員同士で話合いました。
盗まれたと訴えがあった時の対応の仕方
Aさんが「あの人が盗んだ」と訴えを聞いた職員は、もちろん「Bさんはそんな事をする人じゃないし、普段、Aさんの財布の中にはお金は入ってないんですよ」と繰り返し説明しますが、本人は納得しませんでした。
犯人にされた職員Bさんからしたら、認知症が原因だと分かっていても嫌な気持ちが残ります。「自分は一生懸命お世話をしてきたつもりなのに・・」とショックを受けるのは当然でしょう。
Aさんの「物盗られも妄想」は日に日に酷くなり、しまいには犯人だと思いこんでいる職員Bさんに対しても、「お金を返して」と訴えるようになってしまいました。それが続き、利用者と犯人にされた職員Bさんの関係はギスギスしていきました。
どうにかしようと職員同士で話し合い、いつからこの物盗られ妄想が始まったのかと考えてみました。この利用者の方は最初から「ゆっくり外出したい」という希望が強く、以前はこの利用者の方と疑われていた職員Bさん2人で、よく買い物やドライブに出かけていたのですが、最近は職場の職員不足で外出支援をする機会がめっきりなくなっていたのです。
もしかしたら、このストレスが「物盗られ妄想」に繋がったのかも?と考え、なるべく以前のように2人で外出ができるようにしてみたのです。すると、毎日あった物盗られ妄想の訴えがだんだん少なくなっていったのです。たまに「私のお金がない」という事はあっても、説明すれば納得してくれるようになり、以前のように職員とも良い関係に戻る事ができたのです。
物盗られ妄想は認知症が進んで判断力や記憶力の低下が原因と考えられますが、それだけではなく利用者の方の真相心理では「寂しい、かまってほしい」という気持ちが「物盗られ妄想」として出ていたのかもしれません。
小さい子供も親にかまって欲しい、自分を見て欲しい時には万引きなど社会的に悪い行動を取ることがあります。そうすれば親が自分に注目することが分かっているからです。
もちろん、本人は「注目して欲しいから万引きをする」なんて思っていませんが、行動に出てしまうのです。これと同じではないでしょうか。ですので、認知症の方の症状が悪化した時には何かあるのではないかと探ってみることをしてみてください。
[参考記事]
「認知症による物盗られ妄想に対する対応と接し方(実例)」
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